第69話 クリスマスデートと1カット⑨

「匠刀、手冷たくなってきた」

「……貸してみ」


 スマホを弄っていたちっちゃな手が、俺の顔の前に現れる。

 手を繋いでないと、すぐにキンキンに冷えてしまう手。

 コートのポケットの中にカイロが入っていて、片方の手はそこへと。

 そして、もう片方の手を俺は大事に握りしめる。


「いつ繋いでもあったかいね」

「……ったりめーだろ」


 そのために、日々握力つけて筋肉維持してんだかんな。


 *


 桃子が俺を避けた5日間。

 一体、何を考えたのだろう。

 俺が桃子の犠牲にでもなってると思い込んでないだろうか?と不安で。

 あの日以来、無理して俺に笑顔を見せてる気がしてならない。

 俺以外の奴が何を言おうが、全部無視して、俺だけを見つめててくれたらそれでいいのに。


 俺には桃子。

 桃子には俺。

 他の奴なんてどうでもいい。


 だから、俺のために無理すんなよ。

 俺はありのままのお前が好きなんだから。


「俺のどこが好き?」

「え?……何、こんなとこで急に」

「別にどこだっていいじゃん。クリスマスなんだし」


『好き』とは言われても、どこがどれくらい好きなのか、聞いたことがない。


「優しいとこ」

「あとは?」

「……イケメンな顔」

「フッ、他は?」

「腹筋割れてるとこ」

「なぁ、それって、俺じゃなくてもよくね?兄貴だって優しいし、イケメンだし、俺より腹筋割れてんじゃん」

「虎太くんに嫉妬しないのっ」

「すんだろ、普通に。夏祭りの時に助けたのだって、俺じゃなくて兄貴だとずっと思い込んでたくらいなんだから」


 兄弟だから似てるのは当たり前だけど。

 俺を好きな理由にはなんねーよ。


「虎太くんと匠刀は違うよ」

「何が違うんだよ。DNAだって、ほぼ一緒じゃん」

「そういうレベルの話じゃなくて」

「……っんだよ」


 桃子は困惑の表情を浮かべながら、ぎゅっと手を握り返して来た。

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