第68話 クリスマスデートと1カット⑧

 先日のシカトが嘘のようで。

 あれから桃子は、これまで以上に愛情を俺に示すようになった。

 そして、恋人として初めて迎えるクリスマス。

 2人で準備して来たこの日を、最高の1日にしたい。


「なぁ」

「ちゅーはダメだよ?」

「まだ何も言ってねーじゃん」


 ステンドグラス工房を後にして、カフェでホットドリンクをテイクアウトした俺らは、川崎駅で帰りの電車を待つ。

 16時半にヘアサロンに予約してあるらしくて、俺についてきて欲しいという。

『愛され髪』だなんて、特集の端に書いてあったけど。

 俺は桃子がしたい髪形にしてくれるのが一番だと思ってる。

 普段は長い髪を緩く纏め上げてたり、編み込んだりしてることが多いが、今日は珍しく長い髪を下ろしてる。


「それ気に入ったか?」

「うん!!すっごく気に入った。可愛い?」

「よく似合ってる」


 ステンドグラス工房で俺が作った小さなヘアピンを前髪に留めていて。

 時折それに触れながら『可愛い?』だなんて聞いてくる。

 つけてなくても可愛いけど、つけてくれたら可愛いに決まってんだろ。


「なぁ、18時だっけ?帰らないとならない時間」

「……うん」

「結構ギリだな」

「ごめんね、欲張ったから」

「たまにはいいんじゃね?お土産もいっぱいできたし」

「今、写真撮っていい?」

「は?」

「このヘアピンつけた状態で、匠刀と一緒に撮りたい」

「……別にいいけど」


 駅のホームでいちゃついてると思われてるよな。

 桃子のスマホを翳して、自撮りで何枚か撮ってる俺らは、周りの人たちの視線を浴びている。


「朝アイロンかけたのに、やっぱりうねってる~っ」

「ふんわりしてて、かわいいけどな」


 桃子の髪は細くて柔らかい。

 入退院を繰り返してた頃はいつも短かったけれど。

 いつからだろう?

 伸ばし始めたのは……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る