第65話 クリスマスデートと1カット⑤
次に向かったのは、川崎駅へと戻る途中にある新興住宅地の中に佇むステンドグラス工房。
12月下旬ともなれば、陽が傾くもの早くて。
あまり遅くならずに帰らねばならず、帰り道にちょっと寄れそうな所を幾つかピックアップしていた。
そして、匠刀の部屋にあった虎太くんのお土産のガラス玉をヒントに、私たちはステンドグラス工房に体験予約を入れたのだった。
*
完全予約制のその工房は、某テレビ局で講師としても活躍している有名ガラス職人。
教え方がとても丁寧で、初心者の桃子と匠刀でも、小一時間ほどで立派な作品が仕上がった。
見るだけでも楽しいけれど、実際に小さいステンドグラスを自分で作ってみると感動もので、光に反射して虹色に変化する様についつい目が奪われてしまった。
「兄貴が面白かったって言ってたけど、実際やってみると、こういう体験ものも結構いいな」
「そうだね。すごくいい想い出になるよね」
丁寧に梱包して貰った箱を鞄にしまって、私たちは川崎駅へと向かう。
「どこか、カフェにでも入るか?」
「クリスマスだから、どこも混んでるでしょ」
「じゃあテイクアウトするか」
「うん、そうしよう」
駅へと向かいながら、カフェがあったら立ち寄ればいいのに。
匠刀はもう完全に癖になってる。
スマホのナビで、近場のカフェをすぐさま検索し始めた。
「匠刀」
「ん?」
声だけ返ってくる。
視線はスマホを捉えたままだ。
「匠刀」
「……どうした?気分悪いか?」
ほらね。
私が名前呼んだだけなのに、すぐに私の体調を心配する。
こっちを見て欲しかっただけなのに。
「やっと目が合った」
「……っんだよ」
私の言葉に安堵したのを、私は見逃さなかったよ。
そんなにも心配させてしまってるんだね。
右手でスマホを操作する匠刀。
左手は私の右手を握ってる。
書き慣れなくて、ちょっとぎこちないけど。
私は左手で匠刀の背中に『スキ』と書いた。
「今、何て書いたの?」
「さぁ、何でしょう?」
「当たったら、ちゅーしてくれんの?」
「一発で当たったらね」
当たらなくても、ちゅーくらいしてあげるよ。
「『スキ』って書くならせめて、ひらがなにしとけ」
「っっ」
顔を近づけて来た彼は、『余裕』と言わんばかりの顔でチュッと軽いキスした。
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