第11章

第61話 クリスマスデートで1カット➀


 12月25日、聖なる日。

 恋人がいる人たちは、この日が待ち遠しいだろう。

 ううん、違うかも。

 一年中、毎日がハッピーな日なのかもしれない。


 クリスマスに年末年始。

 一年の中でもひときわ特別感のあるこの期間に、桃子はとある準備を進めていた。


「お母さん、匠刀が来たら呼んで」

「まだ用意してなかったの?」

「ネイルに時間がかかっちゃって」

「もう来るんじゃない?約束の時間、9時でしょ?」


 母親がリビングの時計を確認する。

 今日は午前中だけ鍼灸院があるため、既に白衣姿。


 匠刀は朝が弱くて、学校は遅刻常習犯みたいな奴だけど。

 デートの日は、1度も遅刻をしたことがない。

 時計は8時45分を示していて、そろそろあいつがやって来る頃だ。


 心臓に難がある桃子は、体の病変が分かるように、普段はネイルをしないようにしている。

 心臓病の人は健常者より爪の部分が少し赤みがかかっていて、それが赤黒く色が変化すると、心臓に支障をきたしている目安になるからだ。


 洗面所で歯磨きをしていると、玄関から『おはようございまーす』と匠刀の声が聞こえて来た。


「桃子~、匠刀くんが迎えに来たわよ~」

「はぁ~~~いっ!匠刀ごめーんっ、あと5分だけ待ってて~」


 洗面所から廊下に顔を出し、玄関にいる匠刀へ叫ぶ。


「上がって待ってて」

「あ、ここで待ってます。桃子~、ゆっくりでいいからな~」


 母親が匠刀をリビングへと手招きするも、彼は上がりかまちに腰を下ろし、スマホを弄り始めた。


 焦ると心臓に負担をかけるから、匠刀はいつもゆっくりでいいと言ってくれる。

 それなら15分前じゃなくて、時間ピッタリに来てくれたらいいのに。

 なんて、贅沢な思考が働く。


 桃子は歯磨きを終え、自室に荷物を取りに向かう。

『大丈夫、いつもみたいに自然体で』そう自分の心に言い聞かせながら。

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