第59話 揺るぎない想いとあたたかい手⑧

(匠刀視点)


 初めて触った桃子の胸は、思ってた以上に柔らかくて驚いた。

 結構緊張してんだろうな。

 俺がジョギングしてる時くらいの鼓動の速さだった。

 暫くじっと手を添えたままで、手に伝わって来る拍動を読む。


 大丈夫。

 不整脈じゃない。


 夢に出てくるほど聞き倒した不整脈動画。

 不整脈といっても症状は様々。

 遅くなるのも早くなるのもあるし、脈が飛ぶような不整脈もある。

 ここ数年、暇さえあれば医療系動画や書籍を見漁みあさって、得れる情報は上限なく刷り込んで来た。

 顔色、発汗、呼吸、体温。

 心音や脈だけでなく、ありとあらゆる情報がキャッチできれば、桃子が苦しむ時間が少なくて済むから。


 本人は口癖のように『色気がなくてごめんね』と自分を卑下するけど。

 16歳でこのレベルなら、十分じゃね?

 これからもっともっと女性らしくなるだろうし、可愛い系の桃子のことだから、小悪魔系にならなきゃいいなぁとは思うけど。


「無理しなくていいから」

「……してないよ」


 今日の桃子は少し変だ。

 5日も放置したのを気にしてるのか?

 なんか、埋め合わせしてるみたいで、痛々しい。

 もう何とも思ってないのに。


 桃子の胸から手を離そうとすると、俺の手の上からぎゅっと押さえつけて来る。

 もういいのに。


 恥ずかしさと申し訳なさと不安に襲われてるんだろうな。

 手が震えてんじゃん。

 そこまで頑張らなくていいんだってば。


 俺は桃子にとって、一番安心できる場所になりたいだけなのに。

 もう片方の手で、頭をポンポンと優しく撫でる。

 

「不安にさせてごめんな」


 単なる幼馴染だったら、ここまで気を遣ったりしないよな。

 俺が『彼氏』だから、桃子なりに俺のことを考えてくれたんだろうけど。

 

 一体何を言われて、ここまで桃子を突き動かしているのかが、今は一番知りたい。

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