第58話 揺るぎない想いとあたたかい手⑦

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 チュッじゃなくて、ちょっぴり大人なキスもしたのに。

 匠刀は私の心臓が心配みたい。

 雰囲気に流されることなく、踏みとどまった。

 そういう人だよね、匠刀は。

 いつだって私のことを最優先に考えてくれる。


 だけど、それが今は一番辛いよ。


 私のために、無限に広がる可能性を狭めて。

 予め決められてるルートでしか進めないみたいで。

 優しい匠刀が好きだけど。

 もっと強引で無鉄砲な匠刀でもいいんだよ。

 私がまた我慢させたみたいで、心が苦しくなるんだよ。

 もっとわがまま言っていいし。

 いっぱい甘えてくれていいのに。


 そういうことをさせない何かを私が発してるんだろうね。

 私が、どこにでもいる健康的な女子高生だったら。

 匠刀は我慢も無理もしなくて済むのに。


 膝の上に置かれた彼の手にそっと手を重ねる。

 ごつごつとして、大きな、男の子の手。

 その手を持ち上げて、自分の胸にそっと当てた。


「おっ……ぃ、桃子」


 触り心地悪いよね。

 ちっちゃくてぺたんこだし。

 でも、これでもだいぶ成長したんだよ。

 セーター越しに伝わる、匠刀の手の体温ぬくもり

 いつもよりちょっとだけ熱く感じる。

 

 彼の手は、微動だにせずそっと当てられているだけ。

 私のドキドキが伝わってるんじゃないかな?

 覚悟はしたつもりなのに、やっぱり無意識に緊張してくる。

 普段はそんなにも意識したりしないのに、鼓膜を揺らす低めの声に『男子』なんだなぁと改めて思った。


「苦しくねーの?」

「……大丈夫だよ」

「すっげぇ早ぇーぞ」

「……ん」


 やっぱりね。

 私の鼓動を確認した。

 そりゃそうだよね。

 緊張で不整脈になるんじゃないかと心配だよね。

 胸の大きさより、そっちの方が気になるよね。

 私が普通じゃないから。


「無理しなくていいから」

「……してないよ」


 無理じゃなくて、頑張ってるんだよ。

 一応これでも、女の子なんだから。

 恥ずかしいし、恥ずかしいし、すっごく恥ずかしいの。

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