第56話 揺るぎない想いとあたたかい手⑤


 匠刀の家に来て、もう3時間が経過した。

 ご両親がいつ帰って来るか分からない。

 虎太くんだって、夕食の頃になったら帰って来るはず。


 特別何かをしようとか、あるわけじゃないけれど。

 溢れ出すほどの、この想いはちゃんと伝えたい。


 クリスマスデートによさそうな場所を検索してる匠刀。

 ノートパソコンと睨めっこして、幾つかメモをしている。

 そんな彼に背後から抱きついた。


「おっ、……どうした?」

「パソコンに嫉妬してんの」

「フッ、かわいいこと言うな」

「だって、全然こっち見ないんだもん」


 マウスから手を離した彼は、上半身を少し捻った。


「じゃあ、ここ座って」

「へ?」


 匠刀は、さっき私がしたみたいに自身の脚をトントンと叩いた。


「一応、VIP席なんだけど」

「それって無料なの?」

「今なら特別に無料キャンペーン実施中」

「……じゃあ、座る」

「どうぞ~~」


 ちょっとドキドキしながら、胡坐を掻いてる彼の脚の上にちょこんと座る。

 背後から抱きすくめられるように両手がノートパソコンへと伸ばされた。 

 匠刀の吐息が頬にかかる、凄く近い。

 セーター越しで背中に伝わる彼の体温に、否応なしに胸が早鐘を打つ。


「なぁ」

「……ん?」

「ちゅーしたい」

「匠刀が『なぁ』っていう時、そればっか」

「いいじゃん、彼氏なんだから、ちゅーくらい。ってか、嫌なのかよ」

「……別に、嫌じゃないけど」

「じゃあ、こっち向けよ」


 顔を寄せた彼が、耳元に囁いた。


 喧嘩してなくて、5日も無視したというのに。

 そんなこと、なかったことにしてくれるほどの甘いキスが降って来る。


「……くとぉ」

「っっ……安売りすんなっつったろッ」


 名前呼んだだけじゃない。

 甘えて来たのはそっちじゃん。

 そんなに照れられたら、こっちまで伝染するよ。

 匠刀は口元を手の甲で塞いで、あからさまに視線を逸らした。


 いつも飄々としてる匠刀だから、こんな余裕のない顔を見れるのは、私だけだよね?

 ……彼女の特権。

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