第55話 揺るぎない想いとあたたかい手④

「えっ、何これ~?!耳かき?」

「あ、そう。……兄貴がこの間、彼女とガラス工房に行って来たみたいで、その土産」


 俺の部屋でまったりとしていると、瑠璃色のトンボ玉が付いてるのが気になったようで手に取った。


「耳かき、してあげようか」

「は?」

「結構得意だよ?」

「……誰かにしたことあんのかよ」

「フフッ、あるよ~~」


 マジで?

 いつ?

 どこで?

 誰に??

 おいっ、聞いてねーぞ!

 耳かきを手にした桃子はカーペットの上に座り、自身の膝の上をトントンと叩いた。


「今なら無料だよ~~」

「っ……」


 何だよ、それ。


「もれなく、膝枕がついて来まーす」

「フッ。じゃあ、お言葉に甘えて」


 何だか楽しそうにしている桃子の隣りに腰を下ろし、彼女の脚に頭を乗せた。

 久しぶりの膝枕。

 夏の終わりに部屋でゴロゴロした時にして貰ったっけ。

 細くて華奢な足。

 セーターから柔軟剤のすっげぇいい匂いがしてくる。

 そんなことを満喫していると、そっと顔周りの髪が横に流されて、遠慮がちに耳朶が抓まれる。


「さっきの話だけど、誰にしたことあんの?」

「え?……あぁ、耳かきのこと?」

「ん」


 嫉妬すんのは当たり前。

 お前の全部が俺のもんなのに。

 俺の知らない桃子がいんのは、すげぇ腹立つ。


「お父さんだよ」

「あ」

「耳かきしたら、1回100円貰えたから、お小遣い稼ぎでよくしてたの」

「……なるほどな」


 得意だというだけあって、すげぇ気持ちいい。

 痛みは全くないし、それどころか、めちゃくちゃピンポイントで絶妙な場所を掻いてくれる。

 桃子に、こんな特技があったとはな。


「匠刀の耳って、形がいいよね」

「そうか?」

「うん、綺麗な形してるよ」

「耳だけ?」

「……顔もね」

「だよなぁ」

「あーはいはい、匠刀様はイケメンですよ~~」


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