第53話 揺るぎない想いとあたたかい手②
「兄貴、彼女と急にデートになったらしくて、チャリの鍵預かってるから乗せてくよ」
「……ありがと」
ごめんね、匠刀。
ホントはね、それ仕組んだの。
匠刀と一緒にいられるように、虎太くんが気を遣って考えてくれたんだよ。
匠刀を騙すみたいで、ちょっとだけ胸が痛んだ。
自転車置き場へと向かいながら、隣りを歩く匠刀を見上げる。
「ん?」
「……無視して、ごめんね」
「いいよ、もう」
苦笑した彼は、手袋をしている私の手をぎゅっと掴んだ。
*
「しっかり掴まってろ」
「ん」
何度も匠刀が運転する自転車に乗せて貰ったことがあるけれど、振動が心配なのか、いつからか乗せてくれなくなった。
だけど、この間の主治医からの注意書のこともあってか、今日は躊躇うことなく乗せてくれた。
何年振りかの自転車二人乗り。
お巡りさんに見つかったら、怒られるのかな?
匠刀の背中は知らぬ間にすごく大きくなってて。
前はちょこっと顔をずらしただけで前の景色が見えたのに。
今は匠刀の背中しか見えないよ。
それに、今日は温かく感じる。
私が匠刀のぬくもりを欲してるからかな。
「匠刀」
「ん~~?」
「今日、匠刀の家に行きたーい」
「俺んち?」
「……うん」
私の言葉が意外だったのか、ちらりと一瞬振り返った。
ごめんね。
匠刀の両親がちょうどジュニアの地区大会で不在だって虎太くんから聞いたから。
二人きりにして貰えるように頼んだの。
匠刀との時間をゆっくり過ごしたくて。
「俺んち、今日親いねーよ?」
「そうなの?」
知ってるよ。
だからだよ。
「桃子、飯食った?」
「まだ」
「じゃあ、何か食って帰る~?」
「ラーメン食べたいっ」
「お前、ラーメン好きだよな」
「だって、うちの食卓にラーメン殆ど出て来ないんだもん」
うどんや蕎麦は出てくるけど、ラーメンは何故か数か月に1回くらいしか出て来ない。
塩分が多いからと、カップラーメンは食べちゃダメと言われてるしね。
もとちゃんや匠刀と遊びに行く時くらいしか、本当に食べれないんだもん。
「駅裏に旨いラーメン屋あるらしいから、そこ行くか?」
「行く行く~っ!!」
私の返答に気をよくした匠刀は、彼のお腹に回してる私の手を軽くタップした。
「振り落とされないようにしっかり掴まっとけ」
「はーい」
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