第51話 心無い言葉と抉られる思い⑨


『折り入って、お願いがあります』


 学校をずる休みして3日目の日中(鍼灸院の昼休憩中)。

 人生2度目のわがままを両親にした。

 連日のずる休みで何となく心構えができていたのか。

 これまでのことと、これからのことを丁寧に話したら、両親は渋々了承してくれた。


「いつの間にか、随分と成長したのね」


 母が呟いたその言葉は、それまで甘えてばかりだった自分が、両親という偉大な殻から巣立つ準備ができたことを意味していた。


 **


「モモちゃん」

「お忙しいのに呼び出してごめんなさいっ」

「いいよいいよ、モモちゃんなら大歓迎」


 学校をずる休みして3日目の夜。

 勉強とバイトで忙しい雫さんにわがままを言って、ファミレスで待ち合わせをした。


「虎太くん、もうすぐ来ると思うから」

「……すみません」


 学校に行けば、虎太くんに会えると思うけれど、それ以上に匠刀に会う確率が高い。

 ううん、私の姿を探して、教室や保健室に絶対に顔を出す人だから。

 だからこうして雫さんにお願いをして、匠刀に内緒で虎太くんに会わせて貰えるようにお願いしたのだ。


「本当に私もいていいの?何だったら、席外すけど」

「いえ、一緒にいて下さい」

「虎太くんに直接電話したりメールしたりすればいいのに。私に気を遣わなくて大丈夫だよ?」

「……違うんです。私がそうしたいというか。……本当は、匠刀に内緒で虎太くんに会うのも嫌なんですけど。……どうしても、話しておきたいことがあって」

「何だか分からないけど、相談事ならいつでも乗るからね?」

「……ありがとうございます」


 雫さんは本当によくしてくれる。

 私を妹のように可愛がってくれて、今では何でも話せるような仲になった。


 **


「ごめんっ、遅くなった」


 19時半過ぎ。

 部活終わりの虎太くんがファミレスに姿を現した。


「とりあえず、オーダー先にしようか」

「……はい」


 食べながら話すような内容じゃないんだけど。

 さすがに夕食時に呼び出して、ご飯も食べずに話すなんてできない。

 私は2人に合わせるようにオーダーした。


 *


「モモちゃん、考え直して」

「……ごめんなさい。もう決めたことなんで」


 ファミレスで夕食をとり、食後のお茶を飲みながら、虎太くんと雫さんに私の気持ちを伝えた。

 両親にも同じことを言われたけれど、私なりに悩みあぐねて決断したことだから。


「あいつの荒れる姿が目に浮かぶな」

「っ……」


 私の決断は、極端かもしれない。

 だけど、いっぱい悩んで悩み抜いて。

 そして、決めたことだから。


 今まで自分で大きな決断をしたことがない。

 いつだって両親に支えられてきた。

 わがままを言って両親を困らせたくなかったし。

 積み重なった劣等感から、自分で選択する意思もなかった。


 高校受験をする時だって、中学部からの内部進学だったし。

 文系より理系が得意ってだけで、完全に安牌を選んだようなものだ。

 その裏で、匠刀がたくさん悩んでることも知らずに。

 私は自分だけしか考えていなかった。


「月曜日からまた登校するんで、見かけたら今まで通りに接してね」

「……それは大丈夫だけど」


 今日は金曜日。

 月曜日から匠刀を避けて、今日で5日目。

 もう匠刀が限界だと思う。

 ううん、違う。

 私が限界なんだ。

 匠刀に会えないからとかじゃなくて。

 匠刀に後ろめたい気持ちがもう隠せない。


 ちゃんと匠刀に会って。

 匠刀の顔を見て、自分自身にけじめをつけたい。

 じゃないと、絶対に後悔すると思うから。


「明日の部活は午前中だけ?」

「うん」

「じゃあ、お昼頃にサプライズで匠刀を迎えに行きます」


 本当なら虎太くんは3年生だから、部活は引退して大学受験真っ只中なんだろうけど。

 彼はたくさんの大学スカウトを蹴って、白修館大学へ内部進学することを決めた。

 だから部長ではなくなったけれど、そのまま空手部には在籍しているのだ。

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