第27話 折り畳み傘と美人な彼女⑦


 桃子の手を掴んで、周りにいる奴らの間を縫うように歩く。

 玄関口で桃子の傘を広げ、彼女の肩を抱き寄せる。


「俺にくっついてろ」

「……ん」


 塾を後にし、駅へと向かう。

 桃子の体ができるだけ濡れないように傘を傾けて。


「匠刀、怒ってる?」

「怒ってねーよ」

「ホント?」

「ん」


 実際、桃子に対して怒ってるわけじゃない。

 気分がいいとも言えないが、こんな可愛い彼女を持ったら、少なからず周りの男に対して嫉妬心を抱くのは想定内。


「メールで言ってた、友達に誘われたって、奴のことだろ?」

「……ん」


 結構な雨足でも、走ることができない。

 桃子を担いで走ることもできるが、そんなことしたら桃子に嫌われるのが目に見えている。

 俺に出来ることなんて、たかが知れてる。

 ゆっくりと桃子の歩幅に合わせて、できるだけ濡れないようにしてやることくらいだ。


 *


 駅のコンコース内で、桃子の腕をタオルで拭く。

 風邪を引かせないようにしっかりと。


「もう大丈夫だよ。匠刀の方が濡れてるじゃん」

「俺は平気だって」


 華奢な手が、俺の髪に伸びて来る。

 濡れているのを気にしているようだ。


「なぁ」

「ん?」

「勝手に断ったけど、男友達欲しいか?」

「へ?」


 俺の独占欲であぁは言ったが、実際問題、桃子の気持ちを代弁したわけじゃない。

 もしかしたら『友達』というくくりで、もっと輪を広げたいと思ってるのだとしたら、 俺はその桃子の願いをへし折ったことになる。


「ううん、欲しいとは思ってないから大丈夫」

「嘘吐くなよ?」

「吐かないよ。連絡先を交換しても、やり取りするのも面倒だし、一緒にどこかに行くとするなら匠刀がいい」

「なっ……」


 にこっと微笑む桃子。

 俺に気を遣って返してくれた言葉だというのは分かってる。


 年齢相応の子たちと同じような行動範囲が保てない桃子。

 遊園地はダメだし、映画館もかなり危険。

 ライブやコンサートも厳しくて。


 買い物したり、動物園を回ったりするのも、小まめに休憩しないとならないし。

 女の子同士で出掛けるのもかなり制限付きで嫌がられるのに。

 団体行動となれば、それがあからさまになる。


 だから学校の校外学習も日帰りの所だけだったし、修学旅行も断念して来た。

 野外活動の川下りや山登りも当然欠席するしかなくて。


 そんな桃子が、友達をつくっても一緒に楽しめることが少ないと気付いてしまったのが、小3の時。

 それからの桃子は、一線を引いた友達付き合いをするようになった。

 例え相手が男でも友達になりたいのなら、桃子の気持ちを大事にしたい……思いもある。


「あったかいもんでも飲んで帰るか?」

「うーん、お腹空いたからラーメン食べて帰ろう?」

「ラーメン?」

「うん、今の気分がラーメン♪」

「よし、旨そうなラーメン屋探すか」

「やったぁ」


 俺はこいつの笑顔さえ見れればそれでいい。


「匠刀、ちょっと耳かして」

「あ?」


 少し屈むようにして桃子の顔に耳を近づけた、次の瞬間。

 頬に柔らかい感触と、チュッと可愛らしいリップ音が響いた。


「迎えに来てくれた、お礼ねっ」

「……ばーか、安売りすんなっつったろッ」

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