第22話 折り畳み傘と美人な彼女②


『今、家を出たとこ』

『塾は17時半まで』

『部活、頑張ってね』


 塾へと向かう道のりで、匠刀にメッセージを入れる。


 私の体を心配する彼は、彼氏になった途端『束縛』をし始めた。

 今まで、束縛したくても私が嫌がると思って我慢していたという。

 今までだってお節介すぎるくらい心配性だった彼が、数十倍くらいにパワーアップしたのだ。


 自分だって空手の稽古があるんだし、いつ勉強してるのか知らないけど、私より成績がいい。

 1日に24時間しかないのに、一体どうやってやり繰りしてるのか、不思議なくらいだ。


 しかもたった1回のデートで、付き合うだなんて思ってもいなかった。

 4年もの間、虎太くんだけをずっと見続けて、自分の中ではすごく長い時間好きだと思っていたけど。

 匠刀が私をずっと一途に想い続けて来た時間はそれよりも遥かに長くて。

 この間聞いたら、今年で11年目だという。


 それを聞いたら、束縛くらいさせてあげてもいいかな?だなんて思ってしまったのだ。


 **


 塾は理数コースにプラスして、英語のクラスを幾つか組み込んでいる。

 一日中理数ばかりでは、さすがに得意でも集中力が途切れてしまうから。


「モモちゃん、おはよう」

「……おはよ」


 学校でクラスメイトの木下くん。

 同じ講師のクラスを選択しているらしく、度々会う。

 私からは話しかけたりしないけれど、話しかけられたら挨拶くらいは返す。


 匠刀からは、『男はガン無視OK』だなんて言われてるけど。

 さすがに、高校でも塾でも同じクラスの子を無視はできない。


 塾で休み時間はあっても、話せる友達はいない。

 作ろうと思えば作れるのかもしれないけれど、別にいなくても問題ない。

 人付き合いが苦手な桃子にとって、勉強よりコミュニケーションを取る方が何倍も難しい。

 

**


 午前中の授業を終え、談話室のような部屋で昼食をとる。

 お昼ご飯は、途中のコンビニで買ったサンドイッチと小パックのお惣菜。

 それと、ノンカフェインのお茶。

 スマホでメッセージのチェックをしながら、食べるのがいつもの過ごし方。


『今日の昼飯、何?』

 塾の昼休み時間を知っている匠刀が、1時間前に送信して来たメッセージ。

 仕方なく、テーブルの上をカメラで撮影。

 カシャッ。


 毎回、私の昼食を把握したいらしく、写メを送信しないと途端に不機嫌になるのだ。

 ここまでくると病んでるとしか思えない。

 別に私は匠刀が何を食べようが、気になったことなんて一度もないのに。

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