第20話 誕生日と初カレ⑤
いつもながらに嫌そうに振り返った匠刀。
渋々振り返ったであろう彼の頬に、ジャンプしてキスをした。
身長差30㎝ほど。
段差がないと、ほっぺにチューもできない。
「おまっ……」
「ミュージカルとパフェのお礼ねっ」
「なっ……」
初めて見るってくらい、顔を赤くした匠刀。
意外な一面にきゅんとする。
「おいっ、苦しいのかっ?!」
「へ?」
無意識に胸に手が行ってたみたい。
きゅーっと締め付けられるこの感覚が初めてで、ちょっと驚いただけなのに。
彼に心配をかけてしまったらしい。
「ううん、大丈夫。ちょっと、きゅんとしただけだから」
「っ……ばーか」
「もう1回してあげようか?」
「ばっ……安売りすんなっ、アホ」
ホント、口が悪いんだから。
だけど、それが照れ隠しなのも知ってる。
近くにいすぎて、彼の行為も気持ちも軽視していた。
いつも後退りしてたのを一歩前に、彼に近づいただけなのに。
「ずっと虎太くんが好きだと思ってたけど、本当は匠刀が好きだったみたい」
「は?」
「4年前の夏祭りの日にお姫様抱っこで運んでくれた男の子に恋してたんだ。あ、恋じゃなくて、恋もどき?」
匠刀のことだから、初恋だと言ったら難癖付けて来そうだもんね。
アンニュイな表現にとどめておくのが一番。
「えっ、……兄貴を好きになったきっかけって、それ?」
「うん」
「マジかよっ」
「だから、さっき確認したじゃん」
「……」
「もしかしたら、匠刀だったのかな?と思って」
「……聞けよっっ、んなこと、幾らだって……」
はぁぁ~と盛大な溜息を吐いた彼は、頭を抱えてその場にしゃがみ込んでしまった。
……相当ショックだったらしい。
匠刀が私を好きになったのはいつからなんだろう?
これって、両片想いってやつだったってことだよね?
「ここに」
「……あ?」
私の言葉に不機嫌そうに視線を持ち上げた彼。
そんな彼を真っすぐと見つめ返して。
「私の初カレになれる権利を提示するけど、どうする?」
「は?……どういう意味?」
彼の真横に腰を下ろす。
言葉の真意を探るみたいな彼の視線。
焦ったような、嬉しいような。
ちょっと複雑そうな、そんな眼差し。
立ってると身長差で視線も合いづらいけど。
こうして二人して座ってたら、視線も気配も凄く近いよ。
エキナカのショップとショップの間にある通路。
その奥にはトイレがあって、時折、人の視線がチラッと向けられる程度の場所。
匠刀とのキスは初めてでもないし、ずっと傍にいたからかな。
ドキドキするというより、安心感の方が大きい。
ちょこんと彼に一歩近づくと、肩と肩がこつんとぶつかった。
そして……。
これが私の答えだよ。
ずっと何年も想い続けてくれた君への私の気持ち。
ゆっくりと閉じた瞼。
これが何を意味してるのか。
察しのいい匠刀なら、分かるでしょ。
「……ばーか、アホッ。安売りすんなっつったろっっ」
彼がずっと私だけを見てくれたように。
私は彼の答えを待つ。
近くのショップから流れてくる軽快なBGM。
がやがやと買い物客の話し声が聞こえる中、十数秒。
優しく触れ合った唇は、初めての時よりも長くて。
彼の気持ちが漏れ出すように、そっと甘噛みされた。
**
午後5時過ぎ。
歩き疲れた桃子は、匠刀と駅のコンコースにあるベンチに座っている。
「お母さんが、夕飯食べにおいでって」
母親からメールが届いた。
『誕生日ケーキを買っておくね』と言ってたから、匠刀を呼んでパーティーでもするつもりなのだろうか?
「俺もいていいの?家族で祝うんじゃね?」
「何今さら。もうとっくに家族みたいなもんじゃん」
「っ……、じゃあ、遠慮なくお邪魔しますって伝えて」
彼氏だとか、幼馴染だからとかではなくて。
うちの親からしたら、ずっと昔から匠刀は特別な存在だよ。
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