第18話 誕生日と初カレ③


 コミカルな演技が売りの俳優だから、終始笑う箇所が散りばめられていて、あっという間の3時間弱だった。


「すごく面白かったね」

「3時間ってすげー長いと思ってたけど、あっという間なのな」

「それだけ観るのに集中してたんだよ」


 休憩を挟んでの2部構成だったけど、本当にあっという間だった。

 会場のエントランスホールで演者さんがお見送りしてくれている。


 映画だとこういうのは無いから、感動もひとしおだ。


 写真撮影OKということもあって、列に並んで大好きな俳優さんとツーショット写真を匠刀に撮って貰った。


「可愛く撮れてるっ!!」

「よかったな」

「匠刀、ありがとね♪」

「なっ……ばーか」


 素直にお礼を口にしただけなのに、私の反応が意外だったのか、少し嬉し顔をした。


 幕が上がる前からドキドキが凄くて。

 終わった今でもドキドキしてる。

 心臓が悲鳴を上げるんじゃないかと、3時間の間に何十回も深呼吸した。

 

 絶対、両親に頼んでも連れて来て貰えなかったと思うから。

 生まれて初めての観劇に高揚して、余韻がすごい。

 それもこれも、匠刀のおかげだ。


「いっぱい笑ったら、小腹空いた。何か食べに行こ」

「おぅ。何食いたい?」

「う~ん、パフェみたいなやつ」

「パフェな」


 名残惜しく劇場を後にすると、自然と繋がれる私の右手。

 匠刀は右手で器用に近場のカフェをスマホで検索し始めた。


 うん、ちゃんと感じる。

 観劇のドキドキの余韻かも?とも思ったけど、やっぱりちょっと違う。

 安心感のような、落ち着くような心地いい体温のぬくもりだ。


「ここなんてどう?今、5席空いてるみたいだから、予約したらすぐ座れそう」

「お任せするよ」

「んじゃあ、ここで」


 チラッと見せてくれたスマホの画面。

 だけど、カフェなんてどこでもいいんだよ。


『すぐ座れそう』という言葉に、彼の優しさが込められていると気付いた。

 暑い中、席が空くのをずっと待たせたくないという彼の真意を。


「匠刀」

「ん?」


 スマホのナビ機能でお店に向かいながら、私の呼びかけに振り向いた彼。

『どうした?』みたいな顔をして、足を止めた。


「気持ち悪いか?」

「……ううん」

「腹が痛い?」

「……ううん」

「頭痛か?」


 そうだった。

 彼はいつだって、私の体調不良を一番に気にする。

 今もそう。

 変に呼び止めたみたいになってるから、心配そうに覗き込んで来た。


「4年前の夏祭りの日に、私、具合悪くなったでしょ?」

「……ん?」

「夏祭りの会場から、自宅まで抱えて運んでくれたのって、匠刀だった?」

「何言われんのかと思ったら、何だよ。今さら聞かなくても」

「答えてよ」

「あ?」

「私には、すごく重要なことなんだからっ」


 繋がれたままの手。

 汗ばんでベタベタで気持ち悪いのに、今はぎゅっと握り返して欲しい。


「そうだよ、俺だよ。ってか、いつも運んだり介抱してんの、俺じゃん」

「っっ……」


 なんだ。

 そうだったんだ。

 やっぱり、私の体調の変化をいち早く気付いてくれるのは匠刀なんだ。


 虎太くんだと疑わなかった4年間なのに。

 今は、匠刀だったことを知って、安心しきってる。


「もっと早くに聞けばよかった」

「はぁ?……何なんだよ。っつーか、クソあちぃから歩くぞ」

「……うん」


 クイっと引き寄せられた右手。

 私のドキドキが、匠刀に伝わればいいな。

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