第5章

第16話 誕生日と初カレ①


 あっという間に7月に入り、夏休みがすぐそこまで来ている。

 

「モモ、夏休み中の塾って週何日?」

「3日」

「それ以外は、家の手伝い?」

「そのつもりだけど」


 あの日以来、匠刀と直接話をしていない。

 本気で殴るとは思ってなかったし、どうせデコピンとか、頭グリグリされるくらいかと思っていたら。

 まさかまさかの、キスって。


 そんな素振り、見せたこと一度も無かったのに。


 いや、あったのかな?

 さり気ない優しさはいつも感じてた。


 ただ単に幼馴染で、私が他の子より体が少し弱いからだと思ってたけど。

 もしかして、私のことを好きでしてたのかな?


「……――……って、ねぇ、モモ、聞いてる?」

「あ、ごめん。考えごとしてた」

「最近、変だよ?」


 音楽の授業のため、音楽室に向かいながら親友のもとちゃんをじーっと見つめる。


「何?……相談事?」

「もとちゃん、キスしたことある?」

「え?……って、まさか、幼馴染くんとしたの?」

「……ん、この間」

「ホント?!で、で?……どうだったの?よかった?」

「いいか悪いかなんて分かんないよ。不意打ちだったし」

「えぇ~っ、それでもあるでしょ、なんかこう……ドキドキとかきゅんとか」

「……」


 ドキドキ?

 きゅん??


 いたたまれない空気と、後味悪い空気感しかなかった気がするけど。


 いつも飄々としてるあいつが、『しまった』みたいな顔をしたのは憶えてる。

 それに、『ごめん』とぼそっと呟いたのもちゃんと聞き逃さなかったからね。


 あぁ、悪ノリでして、間違えた選択したんだろうな、的なやつ。


 幼い頃から両家で旅行に行ったり、食事をする仲だったから。

 雑魚寝することもあったし、一緒にお風呂に入ったこともあるけど。

 それは小学校2年くらいまでの話で。


 成長するにつれ、少しずつ距離が離れていった気がする。


 それでも、匠刀はいつも傍にいた。

 友達ができない私を気にして、唯一の友達でいてくれたようなもの……だと思っていたけど。


「実はね、来週の誕生日にデートしようって誘われてて」

「何それ!!いつそんな話になったの?」

「先月の検診の日。心配で病院まで来てくれて。母親に『来月の誕生日に、一日連れ出してもいいか?』って聞いて来て。それで、その日の夕方に家の近くの公園の入口でキスされたの」

「うっっっわぁ~~っ、急展開すぎて、頭追い付かない!」

「……私も。もう3週間近くこの問題で悩まされてる」

「その状態で、よく期末試験乗り切ったね」

「でしょ?!私も自分を褒めたいよ」


 期末試験の結果は、理系コースで4番。

 うちのクラスで1番だった。


 ちなみに、理系コースの1番はあいつらしい。

 空手もできて、勉強もできるだなんて、ムカつく。

 しかも、私のファーストキスまで奪いやがって。


「けど、いい機会なんじゃない?」

「え?」

「幼馴染くんのお兄さんを忘れるいい機会。彼女さん、凄くいい人なんでしょ?」

「……うん」


 ケーキバイキングに誘って貰った日のことも、もとちゃんには報告済みで、あの日以来、毎週水曜日のお楽しみ撮影会はしなくなった。


 まだ虎太くんのことは好きだけど。

 あの日の匠刀の行動が、どうしても引っかかって。


 私が好きなのは、虎太くんじゃなくて。

 夏祭りの日に、気遣ってくれた人なんじゃないかと。


 だから、それが匠刀だったのなら、私の好きな人は匠刀なんじゃないかと思えて。


 いつだって一番最初に体調不良に気付いてくれるし。

 いつだって一番傍で見守ってくれたのは、匠刀だ。

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