第13話 ハラハラドキドキ、第3水曜日②


 16時少し前。

 診察も無事に終わり、会計待ちをしていると、母親がスマホ差し出して来た。

 検査室は電波が届かないため、診察が終わるまでいつも母親に預けているのだ。


 電源を入れると、もとちゃんと匠刀からメールが届いていた。


『検査終わった?モモいなくて、寂しいよ~』

『どうだった?』


 もとちゃんのメッセージで癒されるも、匠刀のメールを目にして、思い出してしまった、半月ほど前の出来事を。


 匠刀に誘われ、虎太くんと雫さんとケーキバイキングをした、あの日。

 駅前のベンチで、匠刀は私を周りの視線から遮るようにしてくれた。


 その出来事が、4年前のあの日と重なる。


 当時小学6年生だった私をお姫様抱っこしてくれたのは、中学2年の虎太くんだと思ってたけれど。

 もしかしたら、匠刀だったのかもしれない。


 意識が朦朧としていて、よく憶えてなくて。

 ただ、『娘がお世話になりました』と父親が、施術をしに来た匠刀のお父さんにそう伝えていたから。

 すっかり思い込んでいたというか。

 他に考えもしなかったというか。


 兄弟だから似ているのかも。

 いや、性格は真逆のような二人だ。


 育った環境が一緒だから、同じような行いをするのかも?

 いや、普段の匠刀を見てれば分かる。

 紳士的とはとても言い難い。


 総合受付前のソファに座りながら、悶々と考えを巡らす。


「桃子、会計番号出たから、ちょっと行って来るわね」

「ん」


 会計準備が整うと、会計番号がモニターに表示される仕組み。

 

 16時を回ろうとしていて、会計番号は『7438番』。

 どういう括りでこの番号になっているのかは分からないが、桁の多い数字を目の当たりにするだけで疲れがどっと出てくる。


『今、終わった』と匠刀に送信しようとした、その時。

 ブブブッとスマホが震え、『着信中 匠刀』という文字が表示された。

 すぐさま拒否ボタンをタップする。


『まだ病院内だから、通話はできない』とすぐさま匠刀にメッセージを送信。

 通話できないことはないと思うけれど、匠刀と電話で話すことなんて何もない。


『今どこ?』

『だから、病院内』

『病院内のどこ?』

『本館1階の総合受付の近く』


 メッセージを送信したら、すぐさま匠刀から返信が届く。

 何?

 この不毛なやり取り。


 匠刀が昔から自分勝手なのは分かってるけど。

 今私がどこにいようが、匠刀には関係ないのに。


 だからといって無視すると、後でもっと面倒なことになる。

 横暴というか、制圧力高めというか。

 深く考えないで適当にあしらうのが匠刀の接し方の極意だ。


 もとちゃんに返信メッセージを入力していた、その時。

 母親がいた隣りの席にドカッと座る人物が。


「おい」

「何でいるの?」

「で、どうだった?……検診の結果」


 長い脚を折り畳むみたいに組んだのは、今さっきメッセージをやり取りした匠刀だった。


「おい、聞いてんのか?」

「先に質問したのは私じゃん」

「いや、俺が先だって。メールで『どうだった?』って聞いただろ」

「……あ」

「で、どうなの?」

「何であんたがそんなに心配するのよ」

「そりゃあすんだろ。この間、具合が悪くなったばっかなんだから」

「……あれは」


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