第9話 デートとデート?③


 駅前にあるカフェ『ドルチェ』はプチケーキのバイキングが人気で、予約しないと食べれないと有名なお店。

 ケーキはどれも甘さ控えめで、桃子のお気に入りの店でもある。


 けれど、虎太くんと虎太くんの彼女と一緒にというのは、とてつもなくハードルが高い。


「挨拶して、幾つか食べたら帰ればいいだろ」

「それじゃあ、行く意味ある?」

「兄貴の彼女の顔を立てるっつー意味では、行く意味あんだろ」

「……」


 そうか。

 私がいる、いないではなくて。

 匠刀と仲良くなるためにわざわざ誘ったんだもんね。


「付き合ってくれたら、別のもん何か奢ってやるよ」

「嵐でも来るんじゃない?」

「言ってろ、ばーか」


 隣りを歩く匠刀から、ボディーソープのいい香りがする。

 虎太くんの彼女さんに会うために、わざわざシャワーして来たのかな?


「なんで普通科なの?」

「お前、唐突すぎ」

「ねぇ、なんで?」


 ずっと聞きたいと思っていた。

 空手だけでも結構大変なのに、普通科に入学したということは、勉強も相当してないと難しい。

 そこそこの偏差値の高校ならまだしも、白修館は都内でもトップレベル。

 勉強しか取り柄のない桃子でさえ、おちこぼれないか不安なのに。


「むさ苦しい連中見んのは、部活と自宅道場だけで十分だろ」

「……そうかもしんないけど」


 それにしたって無理があるんじゃない?

 元々要領のいい奴だけど、さすがに高校の授業はレベルが違うよ。


「じゃあ、お前はなんで白修館にしたんだよ」

「え……」

「兄貴がいるから、一年だけでも一緒にいたいとか考えたんだろ?」

「っ……」

「校舎が違うし、学年が違うから、校内で会うことなんてほぼゼロなのに」

「っっ……」


 わかってるよ、そんなこと。

 匠刀に言われなくたって。

 それでも、本気で一年だけでも同じ高校に通いたいって思ったんだもん。


 まさか、彼女ができるなんて思ってなかったから。

 匠刀の思う通り、白修館を選んだ意味がなくなってしまったけれど……。


「兄貴の何がそんなにいいわけ?」

「え?」

「空手が上手くて男でも惚れ惚れする体ってんなら、朋希ともきさんだって似たようなもんだし、紳士的なとこがいいってんなら、他の部の人だって腐るほどいるだろ」


 確かに、白修館に通っていたら、将来有望なアスリートの人は沢山いる。

 虎太くんも匠刀もその中に入っていて、虎太くんの親友の朋希さんもその部類だ。


 だけど私が彼を好きになったのは、マッチョな体が目当てなんじゃない。

 病弱な私を憐れな目で見ずに、一人の女の子として接してくれた点だ。


 **


 4年前の夏祭りの時に、急に気分が悪くなり、倒れそうになったのを虎太くんが助けてくれた。

 自分が着ていたシャツを脱いで頭から被せてくれて、軽々と抱え上げて自宅へと連れ帰ってくれた。


 胸が苦しくて、何て声をかけられたのか覚えてないけれど。

 あの時の安心感と優しさは今でもちゃんと覚えている。


 それまでも倒れることなんてしょっちゅうだったから、誰かに運ばれることにも慣れていたけれど。

 あんな風に顔を隠して貰えたことは初めてだった。

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