第8話 デートとデート?②


「遅ぇーよ、匠刀」


 虎太くんの隣りから哀れみのような顔で見下ろして来る匠刀。


「あ、今、『お前も一緒かよ』って思っただろ」

「思ってないよっ」

「いや、思ったね」

「……」


 ホントは一瞬思ったけどね。

 だって、虎太くんと休みの日に会えるなんて、奇跡に近いもん。

 それが、あんたがいるだけで台無しだよ。


「兄貴、彼女は?」

「電車が遅れてるらしくて、少し待っててって」

「あっそ」

「匠刀、待ってる間にモモちゃんの荷物、運んでやって」

「は?俺が?」

「店は分かってるんだから、向こうで合流すればいいだろ」


 何のことだか分からないが、この後に虎太くんの彼女さんと合流するということは分かった。


桃子とうこ、ケーキ食う?」

「え?」

「お前、甘いの好きだろ」

「……嫌いじゃないけど」

「兄貴、確か4人までじゃなかった?」

「そうだっけ?」


 お財布からチケットのようなものを取り出した虎太くんは、匠刀にうんうんと頷いてみせた。


「じゃあ、これ運んだら桃子と向かうから、現地集合で」

「おぅ、分かった」

「……匠刀?」

「行きながら話す」


 私の手からスリッパが入った紙手提げを取り上げ、匠刀は軽々と持つ。

 いつもながらに自己中なんだからっ!


「お前にしちゃあ、頑張って持ってたじゃん」

「一言余計だよっ」


 虎太くんと駅で別れ、渋々匠刀と自宅へと向かう。


「虎太くんと用があったんじゃない?」

「あ?……ん~まぁな」


 手に食い込むほどに重かった荷物がなくなり、その部分がジンジンと痛む。


「兄貴の彼女がさ、俺と仲良くなりたいらしくて。そんで、ケーキバイキングに誘われたってわけ」

「匠刀甘いの苦手じゃん」

「……向こうの気遣いなのに、食えねぇとは言えねぇだろ」


 意外だ。

 匠刀が他者に気を遣うなんて。

 いつだって自由気ままに、自分がやりたいようにする奴なのに。


「目の前で兄貴が彼女にデレてんのを見るのも、さすがにな」


 あぁ、そうか。

 私を誘ったということは、私もその現場を目撃しないとならないのか。


「兄貴の彼女を間近で見たら、お前も吹っ切れんだろ」

「余計なお世話だよっ」

「いい加減、兄貴から卒業しろや」

「……わかってるよ、言われなくても」


 自宅まで駅からゆっくり歩いて10分弱。

 その道のりが物凄くあっという間に感じた。


 *


「あら、匠刀くん、運ぶの手伝ってくれたの?」

「たまたま駅で行き会ったんで」

「悪いわね。重かったでしょ」

「全然っすよ。それより、この後、桃子借りてもいいっすか?」

「桃子を?」

「はい、デートに誘ったんで」

「はぁ?!」

「え、あらっ、二人はそういう関係なの?」

「やだお母さん、本気にしないでよっ」

「ホントの話だろ」

「(誰があんたとデートするって言ったのよ?!)変なこと、親に吹き込まないで」

「帰りは何時までに送ってくればいいっすか?」

「特に門限とかはないけど、体調だけは気を付けて貰えれば」

「了解っす。ほら、行くぞ」


 スリッパが入っている紙手提げ袋を母親に手渡した匠刀は、『早くしろ』と言わんばかりの視線を向けてくる。

 

「(もうっ、何なのぉ~!)……いってきます」

「いってらっしゃい」


 笑顔で手を振る母親に見送られ、匠刀の後を追う。


「ちょっと、匠刀」

「あ?」

「虎太くんの彼女と会うのも、ケーキを食べに行くことも、あんたとデートすることも何一つ了承した覚えはないんだけど」

「ケーキ要らねぇの?駅前の『ドルチェ』のバイキングだけど」

「えっ……」

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