第6話 ココアとお月様④


「くれた本人の目の前で他人にくれんな。マジで気分わりぃ」

「あ……ごめん」

「欲しいのあんなら買ってやるから、人のもん欲しがんな」

「えっ、瑠美るみにも買ってくれるの?」

「……あぁ」

「わぁい♪匠刀、だ~いすきっ」

「あんまくっつくな、鬱陶しい」


 匠刀が顎で『早く行け』と合図して来る。

 言われなくても、もう行くよ。

 あんたのイチャイチャしてるところなんて、見たくもない。


「モモ、もういいの?」

「うん、行こ」


 テラスを後にし、教室がある2階へと向かう。


「ねぇ、モモ」

「ん?」

「幼馴染くん、お月様が来てんの、知ってんじゃない?」

「へ?」

「今朝のアレも、モモを思ってしてくれたじゃん」

「……」


 そういえば、あいつは昔から勘が鋭い。

 走ってもいないのに心臓が痛くて息苦しい時も、急に眩暈がする時も、なぜか匠刀は一番最初に気づいてくれた。


 小中高と一緒だというのもある。

 私に友達が殆どいないのも知っているから、声をかけてくれるのだろうが。


「ココアってさ、生理の時に飲むといいってよく言うじゃん」

「えっ、そうなの?」

「体を温める効能があるから、うちの母親は私が生理になるとよく淹れてくれるよ」

「……」


 うちは鍼灸・整体院だから、生理の時は母親が鍼を打ってくれる。

 カイロを貼ったり、鎮痛剤を服用したりはするけれど、ココアがいいだなんて初耳だ。


 けれど、さすがに私に生理が来てるだなんて、分からないと思うけどなぁ。


「もとちゃん」

「ん?」

「私、匂う?」

「え?」

「(生理の時の、匂いがする?)どう?」

「さすがにそれはないよ」

「本当?」


 廊下で男子とすれ違い、慌てて口パクで会話する。


 自分では匂う気がするけれど、じゃなかったらどうやって分かるの?


「あいつ宇宙人だから、超能力が使えるのかも」

「フフフッ、何それ」

「だって、他に考えられないでしょ」

「普通に、モモが保健室に行ったのを見たのかもよ?」

「……あ」


 そう言えば、保健室にいた時に、外で体力テストの順番待ちをしているあいつと目が合ったっけ。


 胸が苦しくなったりすれば、早退すると分かってるし。

 眩暈や頭痛で保健室に行ったのなら、私はそのまま2時間くらいは寝るコースだ。


 お昼休みにテラスにいたことで、消去法で答えを導き出したのかもしれない。


「やっぱりあいつは、宇宙人だよ」


 明日あたりに施術しに来るだろうから、あいつの好きなバイク雑誌でも買っといてあげようかな。

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