破られた均衡
長く続いた悲鳴の主は明らかだった。北条政子だ。このデスゲームに参加している女性はナイチンゲールと北条政子しかいない。
「声はどこから聞こえる!」足利尊氏が声を荒げる。
「廊下からでしょうな。お二人には先に行ってもらいたい。我々は体力がないのでな」
ダーウィンの言葉を受けて、龍馬と足利尊氏は走り出した。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
現場に着くと、そこには腰を抜かした北条政子と織田信長、黒田官兵衛の姿があった。織田信長の手には刃物が握られている。何があったかは明白だった。
「ああ、坂本様! 助かりました。この二人が私を襲ってきたのです!」
「やっぱり、お前たちが最初に事を起こすか」と足利尊氏。
「誤解だ! この尼将軍が襲ってきたから凶器を取り上げたまで」
織田信長は怒りのあまり我を忘れ、拳を握っている。
「信長様の言う通り。こやつ、油断も隙もない」
「二人の証言は嘘ですね。二人を襲えば、もう一人がすぐに犯人を指摘できる。それに気づかない人はいないでしょう?」龍馬は静かに述べた。
そう、このデスゲームは基本的に団体行動をすべきなのだ。龍馬の思考を遮ったのは足利尊氏の言葉だった。
「しかし、残念だったな北条殿。もし、織田信長が襲ってきたときに刃物を取って刺せば、殺人ではなくて正当防衛になったのに」足利尊氏は口惜しそうだった。
「人が襲われたというのに、なんてことを!」
「そこまでだ。言い争っても事実は変わらない。このことはアインシュタイン達にも情報共有させてもらう。『織田信長と黒田官兵衛は油断ならない』と」
龍馬はこれ以上ヒートアップしないように無理やり会話を終わらせる。すると、向こうから聖徳太子がやって来た。状況を把握したらしく織田信長に詰め寄る。
「なぜ、和を乱すのですか。ゲームマスターを指摘できれば、一人も犠牲にならずにここから出られるのですよ」
「ぬるいな。その考えがお前の身を滅ぼすだろう」
「何を!」
聖徳太子が拳を振り上げると、即座に織田信長がねじ伏せる。「ただの政治家なんて、凶器がなくても殺せるわ!」
聖徳太子は織田信長の手を振りほどく。織田信長は一瞬不思議そうな顔をしたが、すぐに消えた。聖徳太子の力が思ったより強くて驚いたのだろう。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「やはり、織田信長でしたか」アインシュタインはため息をついた。「まあ、予想通りではありますが」
「そういうこともあって、しばらくあなた達と行動を一緒にさせてもらいます。私は尼将軍というあだ名がありますが、あくまで統治が得意なだけなので」
「いいんじゃないかしら。私も女性仲間が欲しかったの」
「ナイチンゲールさんがそう言うのなら」とダーウィン。
龍馬はホッとした。これで単独行動なのは山本五十六と宮本武蔵だけだ。もし――起きてほしくないが――殺人事件が起きてもどちらか二人が犯人ということになる。龍馬がふと時計を見ると、ここに閉じ込められてから5時間が経ったらしい。あと17時間のうちに誰かが死ななければならない。
ちょっと待てよ。このまま誰も死ななければ? ルールには誰も死ななかった場合のことは書いてなかったはず。デバイスで再確認する。やはり、記述がない。残酷なゲームマスターのことだ、その場合は何らかの方法で――遠隔操作で電気ショックを浴びせるなどで――人を殺すのだろう。それか皆殺しか。龍馬は考えるのをやめた。残り時間のうちに指摘すればいいのだ、ゲームマスターを。そうと決まれば情報を集めるのみ。
「みんな聞いてくれ。ゲームマスターを見つけるためにも積極的に行動すべきだ。情報収集のために」
あたりから賛同の声があがる。
「じゃあ、決まりだ。三人以上でグループを組んで探索といこうか」
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