虚飾の連帯
龍馬たちは最初に個々人に用意された部屋の設備を見ることにした。しかし、ドアノブを回しても開く気配がない。
「くそ、どうなっているんだ!」
足利尊氏はドアを蹴飛ばす。聖徳太子が手首のデバイスの情報をじっくりと見るとあるページで手が止まった。そして「顔認証なるシステムで開くようです」とぽつりと言った。
「顔認証?」と足利尊氏。
龍馬もデバイスで顔認証について調べると「個人の顔がカギになっている」と驚きの情報が載っていた。顔がカギになっている! なんと不思議なシステムだろうか。確かにドアのそばにはカメラと思しきものが設置されている。ここは龍馬に割り当てられた部屋だ。カメラに向かって顔を近づけると、ガチャと音を立ててドアが開く。なるほど、面白い。
「さて、部屋の中はどうなっているかな?」
足利尊氏が先陣を切って部屋に入るが、そこに広がっていたのは無機質な景色だった。テーブルにベッド、シャワー室にトイレ。最低限の設備しかない。
足利尊氏が部屋の隅に置かれた小さなロッカーを開けると、中には数種類の道具が並んでいた。手袋、ハンマー、ナイフ、ワイヤーそして何かの薬瓶。どれも殺人に使えそうなアイテムばかりだ。
「どうやら殺しあうための道具が個室に備えられているようですね。和を重んじる私としてはゲームマスターの異常さに憤りを隠せませんが……」
「デスゲームだからな」龍馬はボソッと言う。
「いつまでもここにいても意味がない。さっさと他の部屋に行くぞ」
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「ここは……食事処でしょうか?」
「そうだな、いわゆるキッチンと食堂というものだ」
「キッチンだと?」
「失礼、足利殿の時代にはない言葉だった。聖徳太子殿の言う通り、食事処という意味です」
「なるほど、つまりは……」
足利尊氏がキッチンに入ると「やっぱりな」とつぶやく。当たり前だが、包丁をはじめ凶器にも使えそうなものが並んでいた。
龍馬はため息をついた。これは厄介なことになったぞ。個室の凶器だけであれば、事件が起きても手荷物検査をすれば誰の凶器が使われたか分かる。しかし、キッチンにも凶器になりうる物があるとなると話は変わってくる。
「他の皆さんの同意を得て共同管理すべきでしょうね」と聖徳太子。
「どうやら見るべき場所は見たようだ。広間に戻りましょう」
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
広間に戻るとそこには文化人グループのアインシュタイン、ダーウィン、ナイチンゲールがいた。
「こちらに近寄らないでくださる? あなた達に殺されたくないわ」
「ナイチンゲールさん、その心配はありませんよ。ルールにこうあったでしょう? 『殺人があった場合、一日バレなければ勝者となる。バレたら敗者になる』と。こんな大勢の前で殺人をするような人はいませんよ」
聖徳太子の言葉に安堵したのか、ナイチンゲールの顔から警戒心が消えた。「それもそうね」
「しかし、織田信長、黒田官兵衛の二人に対して心を許すのは賢明ではありませんな。一人行動をしている者たちもですが」アインシュタインが静かに言う。
「ここは一つ一時休戦としませんか? 敵が多いと神経が参ってしまう」「賛成です」「じゃあ、決まりですね」
龍馬はこの流れに満足していた。一方で懸念も残る。軍師の黒田官兵衛の計略によって裏切り者が出れば、油断した者が殺される。龍馬はこのデスゲームの本質を理解した。表面上では信頼しあう一方で、いつ裏切られるか分からないという恐怖がつきまとうのだ。この心理戦を制した者が勝者となる。果たして自分は生き残れるだろうか。龍馬には一抹の不安があった。次の瞬間だった。悲鳴が響き渡ったのは。
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