第12話 ボクが守らなきゃ
今、なんて言った? 処刑?
「1時間後にニンゲンの公開処刑を行う。街のネズミたちに知らせろ」
どうしてそうなるの? ボクの話、聞いてなかったの?
兵士とアナウンサーは、総統の指示に従って動き始める。
トコはきょろきょろと頭を動かしている。マズい状況だってことがわかっていないみたい。
「ま、待ってください!」
ボクは叫んだ。絶対に説得しなきゃ……でなきゃ、トコが殺されちゃう!
「どうしてですか⁉ ボクたち、街を出ていくって言ったじゃないですか!」
兵士が腕を引っ張ってどこかへ連れて行こうとするからボクは暴れた。
すると、総統はボクの前に静かに立った。
瞳の奥をのぞき込まれる。心臓をつかまれているような感覚に息苦しくなる。
「ニンゲンは敵だ。我々ネズミがガスやモンスターに怯えて生きるしかないのは、すべてはニンゲンのせいだ。生かしてはおけない」
「だからって、トコを処刑するのは絶対にちがう! 間違っている!」
自分の喉から、こんなに荒々しい声が出るなんて知らなかった。
疑り深い視線に負けないように、ボクは大きな声で吠えるように訴える。
「世界をめちゃくちゃにしたのは大人のニンゲンだ! トコは関係ない! トコは、ただニンゲンに生まれただけなんだ! プラスチックを食べて、痛いときは泣いて、うれしかったら笑って、ボクたちと何も変わらない!」
「そのニンゲンが原因で、この街が、ネズミたちが、命の危険にさらされたとき、お前は責任を取れるのか?」
「そ、それは……」
「世界が滅んだ日、大勢の仲間が死んでいった。もうこれ以上仲間を失うわけにはいかん。私はこの街を守らなければならない」
総統の目がボクを射抜く。冷たい、怖い。
でも、負けるわけにはいかない。
「アルは 兄さんは、絶対にあきらめない!」
ボクは総統を精いっぱい睨み返す。
総統はアルを見捨てた。怒っているのはお前だけじゃないんだぞ!
「北地区の停電を直したのだってアルだ! 統率軍は危険だからって、結局何もしてこなかったじゃないか! 危険危険って、怖がってばっかりじゃ何も始まらないよ!」
総統が拳を握りしめる。ギリリ、と手袋が鳴る。
「図に乗るなよ、若造が!」
「図に乗ってなんかいない! ボクだって、トコの命を預かっているんだ! 絶対にあきらめない!」
チャリッ。
叫んだ拍子に、ほお袋の中でペンダントのチェーンが擦れた音がした。
しまった……!
総統の耳がピクリと動く。
「何を隠している? 吐け!」
総統の手袋がボクの顔をつかむ。ボクは背中をそらせて、口をこじ開けようとする指から必死で逃げる。
「押さえろ!」
総統の命令で、兵士たちがボクの頭を押さえつける。
ダメだ……このままじゃ、ペンダントが取られちゃう!
「総統! 大変です!」
ひとりの兵士が叫ぶ。
「ええい、何事だ!」
「南地区のスプリンクラーが勝手に作動しています!」
モニターに映っていたのは、天井から水が噴射されて、ずぶ濡れになったネズミたちが慌てて建物に入っていく様子だった。
「何をしている! 早く止めろ!」
「で、できません! 何者かによってコントロールシステムがジャックされています!」
この街の機械を勝手にいじるネズミなんて、一人しかいない。
『あー、あー、ゴホン。統率軍の皆さ~ん、聞こえてますかぁ~?』
小バカにしたような、挑発的なしゃべり声が室内に響き渡る。
モニターには、バギーを運転するハジメと、その後ろで通信機を握りしめるアルの姿が映った。
「アル!」
よかった、生きていた!
安心して息が吸えたから、周りが良く見えるようになった。モニターを見た総統が、一瞬、ホッとした顔をしていたのを、ボクは見逃さなかった。
でも、総統はすぐに鼻先を真っ赤にしながら怒鳴った。
「あのバカ息子! いったい何を考えている!」
「総統、あれ!」
兵士がもう一つのモニターを指さす。画面いっぱいに映し出されたのは、巨大なゴミの塊がバギーを追いかけている。
あれって、北地区で見た巨大モンスター⁉
『もうわかっていると思うけど、でっけぇモンスターが現れた。アナウンスの音に反応して街へ向かっている。だからスピーカーは使えない。とりあえずスプリンクラーを使って、ネズミたちは建物の中に避難させたけど、逃げ遅れたネズミたちはあんたらに任せる』
「くっ……全兵士に告ぐ! 市民の避難誘導を優先せよ! いそげ!」
兵士たちは大混乱。総統が慌てて指示を飛ばす。
アルがモニターを見る。ボクと目があった気がした。
『ロニ、トコ、さっさとこっちへ来い! オレたちで、このデカブツをぶっ飛ばすぞ!』
アルがボクたちのことを呼んでいる。こんなところで捕まっている場合じゃない!
「トコ!」
トコがこっちを見る。
「よく頑張りました! もういいよ!」
ピンクの瞳がキラリと輝く。トコがフンッと力を入れると、腕をしばっていた縄は簡単に千切れた。
「うわっ、こいつ!」
トコのすぐそばに立っていた兵士が武器の棒を振り上げた。でもトコは簡単に避けて、ヒョイとボクを抱きかかえる。
「トコ、走って!」
「あいっ!」
ボクをお姫様抱っこした状態で、トコはドアを蹴飛ばして走り出した。
「何をボサっとしている! 追え!」
総統の声を背に、トコは狭い通路を全速力する。
走る、走る、走る!
速い、速い、速い!
ルートは連れてこられたときに覚えていた。
「トコ、右!」
でも、トコは左に曲がってしまった。
「違うよ! 反対!」
「あれ~~っ⁉」
そっか! トコは小さいから、まだ右と左がわからないんだ!
靴底をすり減らしながら急ブレーキをかけてUターン。元の道に戻ろうとしたら、兵士が道を塞ぐようにして迫ってくる。
「ど、どうしよ、んぎゃっ!」
迫りくる兵士たちを無視して、トコが走り出す。しゃべっている途中だったから、舌を噛みそうになった。
兵士たちは、猛スピードで突進してくるトコにひるんで足が止まった。
ひぃ、危ないっ!
トコは兵士たちと衝突する寸前でジャンプした。見上げた兵士たちの顔を踏んづけながら、あっという間に兵士たちの後ろに回り込んで走り去る。
顔を踏んず蹴られた兵士たちは、しばらく動けそうにない。逃げるなら今がチャンスだ!
「こっち!」
今度はわかりやすいように、縄でしばられた両手を進む方に突き出す。
「あい!」
すると、トコは言われた方向に進んでくれた。トコって本当にお利口さん!
「こっち!」
「あい!」
「あっち!」
「あい!」
出口だ! トコは勢いそのままに、またドアを蹴破った。
「ぐえぇっ」
トコの怪力に耐えられなかったドアは、蝶番が壊れてバタンと倒れた。
さっきの変な声の正体は、ドアの下敷きになった見張りの兵士だった。
「ご、ごめんなさい……」
気絶しているけど、一応謝っておいた。
トコはボクを下ろすと、ボクの腕の縄を引き千切ってくれた。
「本当にありがとう! 助かったよ~!」
「んへへぇ~♪」
自由になった手でトコの頭をなでると、トコはうれしそうに、にへらと笑う。
ボクもつられて笑うと、ほお袋の中で転がる気配がして思い出した。隠していたペンダントを口から出す。服でよだれを拭いてからトコの首にかける。
「あ、あとでちゃんと洗うから……」
遠くで何かが壊れる音がした。きっとモンスターが暴れ回っている音だ。
近くに停めてあったトライシクルに乗り込む。
「ボクたちも行こう!」
「あいーっ!」
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