第13話 敗者と勝者と閉廷
「...これが真実」
ざわつき始める教室。
好きだったのは乃木岡であり、俺と付き合ったのはあくまで乃木岡の気を引くためであったこと。
これまでやってきたこと細工や偶然を装った運命演出...。
俺が想像しているよりエリンは遥かにやっていたのである。
「...いや...嘘だろ...エリンがそんなこと」
「今の話は嘘じゃないよ。それは添木莉理の名の下に約束する」
「だって、エリンが...エリンが...俺と付き合うために...焚き付けるためだけに...彼と付き合ったなんて...」
「本当だよ。幻滅した?」
「...幻滅とかは...しない...けど」
「そう?ごめんね、私は永世くんが思っているようないい子でも優しい子でもないよ。ただの嘘つきで最低な女の子」
「そんなことない!」
すると、今度はゆっくりと俺の方を見る。
「多分、怜から聞いてたよね。本当は...陸くんのことなんか1ミリも好きじゃなかった。キスした時も...気持ち悪くて仕方なかった」と、真顔でそう言われた。
心の奥底では何かの間違えで...本当の本当は俺のことを好きでなんて言う妄想をぶち壊すには十分すぎる言葉だった。
「...そうだよね。何となく...分かってた」と、目を逸らしながら俺はそう言った。
だって、どう考えたっておかしな話だ。
俺みたいななんの取り柄もないクラスメイトをいきなり好きになるなんて、あり得ないから。
「うん。そりゃそうでしょ。私が陸くんのことなんか」と、言いかけた瞬間、怜さんは手を振り上げて思いっきりビンタをした。
【挿絵】
https://kakuyomu.jp/users/tanakamatao01/news/16818093083088127558
「...もう喋らないで。いや、喋るな」
いつもの不機嫌や無愛想とは違う。
明確な怒りを浮かべながら怜さんはそう言った。
「...ごめん」
「謝罪なんていらない。消えて。消えてなくなっちゃえ。私の目の前から。私たちの目の前から」と言いかけた言葉を俺が遮る。
「いいよ、もう!」
クラスのインキャの少し上擦った大きな声にみんながこちらを向く。
あー、こういうの苦手なのにな。
「俺は...気にしてない。エリンとの思い出が...全て嘘だったとしても...本当は嫌がっていたんだとしても...それでいいんだ。それでも、俺にとっては出来すぎた展開で...身に余る展開だったんだよ。分かってたはずだった。心のどこかでは、これは夢なんじゃないかって。そして、本当にただの夢だった。それだけなんだよ。だから、もうこの話は終わりでいいでしょ」
ようやく我を取り戻し、目線を斜め下に下げる怜さん。
「どうやら、一件落着ってことでいいのかな?まぁ、そもそも当人の問題だから。当人同士がいいって言うなら外野がとやかく言うことでもないよね。てことで、閉廷!はい、解散解散!」
そんなタイミングで昼のチャイムが鳴るのだった。
◇放課後 図書室
「...こんなところに呼び出して何の用?添木」
「あはっwだいぶご機嫌斜めだねぇ」
「...彼を待たせているの。要件があるなら早く済ませたいのだけれど」
「一応、怜には言っておこうかなーって思って。エリンは嘘をついている」
「...嘘?」
「そう。嘘。もちろん、どんな嘘とかそんなのは口が裂けても、顎が外れても言えない」
「...それを私に言ってどうするの?」
「いや、ただ迷って欲しいだけ。それだけ」
「...そう。それじゃあ、行くわね。あっ、そうそう...。私からも一ついいかしら」
「ん?何?」
「今回の勝者は一体誰なのかしら」
「...勝者?」
「あなたはいつだって勝者と敗者を決めてきた。白と黒、有罪と無罪、被害者と加害者...それがあなたにとっての正義だと思っていた。けど、今回は誰も救われない、全員が敗者になった。これってあなたの正義に反していないのかしら」
「...」
「心境の変化?それとも気づかなかったのかしら。だとしたら...いえ、なんでもないわ。それじゃあ、さようなら」
私はその言葉を聞いてハッとさせられた。
気づかなかった。自分の正義が曲げられていたことに。
「やっぱ最高だな、怜」
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