第11話 添木莉理は判決を下したい

「私もお母さんやお父さんのような...正義の味方になる!」


 小さい頃の私は自分の親がどんな仕事をしているのか理解できていなかった。

何となく、悪人をやっつけて、善人を助ける...そんな仕事だと思っていた。


「私のお父さんとお母さんはすごいんだよ!」と、昔はそう言いふらして回ったものだ。


 みんなからすごいすごいと言われ、それが自分のことようで気持ちよかった。


 まぁ、その認識は別に間違いではないのかもしれない。


 少なくてもあの時までは。



 ◇


 小学6年の頃だった。

いつも通り学校に登校すると、ある噂が流れていた。


『どうやら、添木莉理のお父さんが担当した裁判で冤罪が起こったらしい』という噂だった。


 それもただの事件ではなく、日本中を震撼させたとある大事件での出来事であったため、すぐにその噂が流れた。


 もちろん、お父さんだけが悪いわけじゃ無い。いや、一番悪いのは警察と検事だった。


 犯人を脅迫し、自白を取ったのちに証拠をでっち上げ、犯人を作り上げたのだ。


 それがテレビで報じられると、ネットではすぐに当時の警察、検事...そして、裁判官であるお父さんの名前が挙げられた。


 証拠をでっち上げられたらお手上げではあるが、『裁判官ならこれくらい見抜けよ。明らかにおかしいし、こいつもぐるったんじゃねーの?』『グルじゃなくても無能すぎる。晒せ晒せ』と、そんな声が上がりお父さんが特定されたのだった。


 普段からお父さんとお母さんはすごいんだと威張っていただけにその反動は大きかった。


『嘘つきの子』だとか、『犯罪者』だとか、色んな声が浴びせられた。


 その言葉の数々は元々プライドの高い私にとって、痛すぎる言葉だった。


 そうして、だんだん嫌がらせはいじめに変わり、私は学校に行くのが怖くなった。


 そのことを親に打ち明けたかったが、打ち明けたら傷つけてしまうのでは無いかと思って、一人で抱え続けた。


 何日も何十日も...。

そんなある日のことだった。

何を言われたかは覚えていない。

別にそれが全てではなかった。

あくまでちりつも...積み上がった怒りと憎しみと悲しみが...爆発した。


 実は学校に携帯を持ち込み、彼らの所業を全て録画、録音していたのだった。

それは言い逃れの出来るレベルの量ではなかった。


 それをいじめっ子たちに見せる。

そして、過去にいじめによって自殺した例を取り上げ、特定されたその加害者たちのその後を少し大袈裟に伝えた。


 まぁ、実際名前を知られた人間は一生デジタルタトゥーとして残り、就職もままならないと聞くから嘘では無いのだが。


 さらにこのことをお父さんやお母さんに言えば、あんたたちは少年院にぶち込まれると脅す。


 すると、ようやくこの重大さがわかったのかいじめの主犯格が謝る。


「...ごめん。もうしない...だから許してほしい...」と、涙ながらに頭を下げた。


 その取り巻きもボスが屈したことでどんどん謝罪を始める。


 私の中の正義が大勝利した瞬間だった。


 それは私の過去の出来事の中の、どんなことよりも刺激的で堪らないほどの快感だった。


 それと共に私の中のもう一人の私が生まれた瞬間だった。


「...許してあげてもいいよ。一個...条件を飲んでくれれば」


「条件?」


 そして、私は主犯格を指差し、判決を下す。


「...私がいじめられた75日間...私にしたことの全てを...こいつに...」


 今度は取り巻きの人間を指差す。


「あんたらがやるって言うなら、なかったことにしてあげる」


「...は?」と、絶望する主犯格。


「...それで許してくれるの?親にも言わない?」


「言わないよ?絶対に。けど、もしこいつがいじめられているって先生や親に言ったらその時はあんたらも同罪。つまり、こいつから...反抗の意思も全てを奪い取るの」


「...そんなの!やるわけないだろ!な!」と、涙ながらに言う主犯格に目を合わせる人間など居なかった。


「...お前ら」


「...洗濯バサミの刑」


「...は?」


 すると、覚悟を決めたように彼らは主犯格をいじめ始めるのだった。


 もちろん、私は手を一切下していない。

それに誰もちくることはできない。

結果、主犯格はわずか1ヶ月ほどで転校してしまうのだった。


 楽しい...。

自分の正義を振り翳して...正義を執行することだ。楽しくて...仕方なかった。


 何が人間は生まれながらにして善の心を持っているだ。

馬鹿か。


 こいつらを、この私を、この世界を見てよくそんなことを言えるものだ。


 世界には悪人ばかりなのだ。



【挿絵】

https://kakuyomu.jp/users/tanakamatao01/news/16818093083043180931


 でもそれがすごく嬉しくて堪らないのだ。


「...あはは、私ってもしかして最強?」


 そうして、中学に上がってからも私は私を貫き通した。


 クラスの女子をいじめていた女をいじめて...転校に追い込んだり、クラスの女子をストーカーしているインキャオタクをネットに晒したり、私に逆らう人なんて誰もいなくなった。


 そんな退屈した世界で唯一、私に屈しなかった女。それこそが木枯 怜だった。


「...だから、気になるんだよねー。あんたが堕ちるほどの男の方がさ」

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