裁判編

第10話 善人の皮をかぶった悪魔

「あはははwいやー、皆さん荒れてますねw」


 不穏な雰囲気がクラス内で漂う中、一人の金髪美少女が楽しそうに割り込んでくる。


【挿絵】

https://kakuyomu.jp/users/tanakamatao01/news/16818093082970475972


「...添木そえぎ」と、嫌そうに怜さんが呟く。


 添木そえぎ 莉理りり

綺麗な金髪を靡かせるギャル的な女の子。

クラスの中心人物の一人であり、クラスで何か揉め事があると、解決していた。


「まぁまぁ、皆さんここは私にお任せください!まず、ゆい的には『彼氏を寝取ったやつが教室でイチャイチャするのが許せなーい!』ってことでいいんだよね?」


「...まぁ、そんな感じ」


「んで、怜的には『そんなの私には関係ない。当事者でもないし、何も事情を知らないのに首を突っ込むな』ってことでいいんだよね?」


「...えぇ、そうね」


「そんで永世くん的には『二人には争ってほしくない。それも原因の一端が自分の彼女にあるとなれば尚更...』ってことだよね?」


「そうだね。みんなに仲良くして欲しいだけなんだ」


「そっかそっかー。んじゃ、解決するための方法は1つかなー。事実を明らかにする。これに尽きるんじゃないかな!ね!みんなそれでいいでしょ!」


「事実って何?」と、松下まつした ゆいが問いかける。


「そんなの決まってんじゃん!『本当に怜は寝とったのか?』でしょ?もし、本当に寝とったとしていたら、そりゃーエリンにとっても、その友達である唯にとっても、目障りで鬱陶しいと感じるのはごもっともだよねー。ましてや学校の教室でイチャつくなんてさ!」


「今更何いってんの?実際、この二人はそういう噂が流れて、現にこうして付き合ってるじゃん。それ以外に何があるっていうの?」


「じゃあなぜ、別れてすぐに今のようにイチャイチャしなかったの?だってそうでしょ?そういう噂が流れて、それが事実だというなら最初からイチャイチャしていたはず。だけど、実際にはある程度の期間を置いてからイチャイチャするようになった...。それはなぜ?」


「それは...自分達の噂が収まってから...しようと思ったとか」


「それは憶測でしょ?事実じゃない。だから、はっきりさせないとダメなんだよ!ね!もし本当にここにいる全員が白だっていうなら、真実を明らかにすることに抵抗する人なんていないよね?」と、エリンに向かってそう言っているように見えた。


 この人はいったいどこまで知ってるんだ?


「...うん」と、奥歯に何か詰まったように返事をするエリン。


「怜もそれでいい?」


「...構わないわ。ここまできた以上ね」


「じゃあ、そういうことで話は終わり!まぁ、真実が明らかになるまではお互い学校でイチャイチャするのはやめよう!怜もエリンも!んじゃ、そういうことで!」


「ちょっと、真実が明らかにってどうやって突き止めるつもりなの?」


「ん?そんなの決まってんじゃん。私が調べる。それでいいでしょ?」と、添木さんは不敵に笑うのだった。



 ◇放課後


 いつも通り怜さんと二人で帰っていた。


「...添木さんと何かあったの?」と、脈略もなくそんなことを切り出してみた。


「...中学の時から一緒なの。親がどちらも裁判官ということもあってのことなのか、こういうクラスの揉め事が起きた時、いつも彼女が解決してきたの」


「...それって...いいことじゃないの?」


「...いいこと。いえ、そうね...。表面上で見れば彼女の行動は正しいわ。何も間違っていない。いえ、何も間違っていないと思わせることができるのよ。そして、誰にも口を挟ませない」


「...どういうこと?」


 そのまま怜さんに促され、


「中学時代、一人の女の子がいじめられていたの。原因は...確か彼女の体臭によるものだったかしら。まぁ、いじめる側の理由なんていくらでも捏造できるし、そんなものに意味はないんでしょうけどね」


「...そうだね」


「彼女はそれを許さなかった。徹底的に証拠を集めて、クラスでその悪行の数々を晒したの」


「...それはいいこと...って、晒した?先生に言ったりするんじゃなくて?」


「えぇ、クラスに晒した。それからそのいじめっ子に対して彼女は同じようなことをした」


「...そんなことしたら添木さんがいじめられるんじゃない?」


「それがそうはならなかった。彼女の親は裁判官だからね。もし、この事実を親に報告しようものなら、それこそいじめっ子の彼女は終わり。だからこそ、彼女は徹底的にいじめた。もちろんクラスメイトは誰も口を挟まない。だって、彼女の行動には正義があるのだもの。そして、親という背景もある。結果、いじめっ子の彼女はすぐに転校することになった」


「...まぁ、でも...正義ではあるよね」


「そうね。けど、いじめっ子をいじめていた時の彼女の顔は...正義とは程遠い表情をしていたけどね。だから覚悟しなさい。私たちの身の潔白は証明され、教室でイチャイチャすることに誰も口を挟まなくなるでしょうね。その代わり、エリンの悪行の全てが公となり、私たちに向けられた視線は今度エリン達に向けられるようになる。というより、下手すれば最初から全てをわかってたように見えたけどね」


 ...正義の皮を被った悪魔ということか。



 ◇


「あはは、案の定そういうことかー。いやー、残念だよ。エリン。さようなら」

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