第8話 甘い卵焼き

 デートの日、こっそり盗撮した陸の写真見ながらにやにやしていた。


 ご飯を食べるその姿...。

可愛くて、可愛くて、可愛くて可愛くて仕方ない。


 私といる時にたまに見せてくれる笑顔。

だけど、まだ心に残っているだろうその傷。

いつか、本当に私のためだけに...私だけをみて笑ってくれるその日が...。



 ◇月曜日


「はい、あーん」


「...あーん。...うん、美味しい」


「そう?」


 一生懸命、朝早く起きて使った私のお昼ごはん。

なんだかんだ美味しそうに食べてくれていた。


「...料理得意なの?」


「まぁ、人並み以上には」


「...なんでもできるね、怜さんは」


「そうね。なんでも出来るわ。はい、次は卵焼き。あーん」


「...あーん」


 まだクラスメイトが奇異な目で私たちを見る中、そんな視線を無視して見せつけるようにイチャイチャする。


 そして、前の席では相変わらず、エリンたちがイチャイチャしている...。

直接はみていないが、陸の視線と彼女の声でなんとなくそれが分かる。


「...ね、この前のキス...どうだった?」


「ふぇ!?」


 ようやく私に視線を向けてくれる。


「だから、駅でのキスのこと」と、やや大きな声でそういってみる。


「あっ...//そ、それは...//」


「...私はすごく良かった」


「...//」


 こんなことでしか注目を集められない自分が少しだけ惨めになる。


 すると、周りの連中がざわざわし始める。


「...場所を変えましょうか」


「変えるって」


 そのまま、手を繋いで彼を連れて去った。


 目的地はあの図書室だった。


「...知ってる?ここは昼間も全然人がいないのよ」


「...なんでわざわざあんなこと言ったの?」


「決まってるでしょ。嫉妬しているから。私は好きだから。あなたのことがただ好きだから。だから、あんなことを言ったの。だから連れてきた。わかるでしょ」


「...そうだね。けど...ごめん。今のは嫌だったかも」


 私は人の気持ちを推し量るのが苦手だ。

だから、一人が楽で一人が良くてそれでも、そんな私でもいいとエリンは言ってくれた。


 そんな彼女と一緒にいるのが心地よくて...甘えてしまっていた。


 そのつけが今きっと来ているのだろう。


 私は彼の気持ちを推し量れない。

してほしくないことをしてしまっている気もするし、どこかで私に感謝しているのかもとも思っている。


 分からない。だから、突っ走って...また一人になってしまうのだろうか。


「...そうよね。ごめん。ごめんなさい」と、私は彼の手を離した。


「...ううん。気持ちは嬉しいから...。それに少しだけスッキリもしてる。けど...うん...。こういうのじゃなくてさ...ちゃんと向き合いたいんだ。怜さんと」


「...え?」


「まだエリンに気持ちがあるくせに何いってんだって話だけど...俺も前を見たいんだ。だから、目を逸らすんじゃなくて、逃げるんじゃなくて...真正面から向き合いたいんだ。俺は...怜さんのこと気になってるよ。デートも楽しかったし、趣味も合いそうだし、一緒にいるのも好きかなって...。だから...聞かせてほしい。俺のどこが好きだったのかなって」


「...ごめんなさい。突っ走って...。私はまっすぐで...優しい陸が好き。好きなの。ただ、好きで好きで好きで...夢中になっているの...。私だけをみて欲しくて...」と、溢れ出した感情が言葉になっていく。


「...そっか。ありがとう」


 すると、彼は私の作った弁当から卵焼きを取り出すと、「あーん」と言った。


「え?」


「...やってみたかったんだ。俺も」


 その時食べた卵焼きはすごく甘かった。

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