第3話 不束者と面倒な家族

「...あの」


「何?」


「...何というか...その...何故うちに?」


 あの後、彼女の手を取った俺に「それじゃあ、さっそくあなたの家にお邪魔していいかしら?」と彼女はいい、そのまま家に来たのだった。


「彼女が彼氏の家に来るのはそんなにおかしいこと?エリンだって何度かきたことあるはずでしょ」


 本当に付き合うつもりなのか...。

いや...木枯さんはすごく綺麗だし、エリンと同じくらい俺と釣り合いが取れないほどのスペックを持っていると思う。


 似ているところと言えば、ボッチでクラスの嫌われ者という立場くらいなものだ。


「...なんで俺なんかのこと好きになったんですか?」


「さぁ。好き嫌いなんて理屈でなるものじゃないでしょう。足フェチの人になんで足フェチなんですか?って聞いても答えなんて返ってこないでしょ」


「...そういうもんなんですかね」


 正直、彼女の告白はまだ信用していない...。

何か裏があるんじゃないかって思うのは自然なことだ...。


「そういうものよ」と、言いながら勝手に押し入れを漁り始める彼女。


「って!//ちょっと、なんで勝手に押し入れを漁ってるんですか!?//」


「探し物があるから。どうせあなたのことだから...ほら」と、彼女は一つの袋を取り出した。


「...」


「これ、エリンにあげるつもりだった誕生日プレゼントでしょ。あの子、それを込みで誕生日をもらってからあなたと別れるつもりだったらしいわよ」


「...そうなんだ」


「それで?何を買ったの?」


「...ネックレスです」


「そう。じゃあ、これは私がもらっておくわね」


「え?いや...えっと...それは...」


「何?サイテーな元カノだって分かった今でも、まだ囚われるつもり?」


「...」


「そうね。それも理屈ではないものね。それにあなたが私の事を好いていない、というよりまだ全然あの子のことを忘れられてないことくらい分かってるわ。だからこそ、私は私を好きになってもらうために全力を尽くすわ」


「...俺にそんな価値ないですよ」


「そんなことないわ。少なくとも私にとってはね」


「...」


「はい、次は携帯出して?」


「え?」


「どうせ、あの子との思い出の写真とかあるんでしょ?一枚残らず消し去るから」


「...いや、その...写真を消すのは自分でできるので...」


「ダメよ。どうせあなたのことだからこっそり一枚隠したりするつもりでしょ」


「いや、そ、そうじゃなくて...その...フォルダの中にはみられたくない写真とかあるので...」


「...そう。そういうこと。確かに私も好きな人には見せられない写真はあるわね。まぁ、仕方ないけどそこはあなたに任せるわ」


 え?見られたくない写真とかあるの!?気になるな...。


「...ありがとうございます」


「その敬語やめてくれる?同い年...というか彼氏にそんな畏まられるの嫌なんだけど」


「...りょ、りょーかい...」


「それとこれからはちゃんと、怜と呼んでね。さて、次は...」と、今度はベッドの下を眺め始める。


「ちょっ、何してるの?」


「やっぱデジタルの時代にベッドの下にエロ本を隠している男子なんて、ツチノコを探すより難しいわよね」


 思っていたより大分変わった子のようだ...。


 そのまま、本棚から漫画を一冊手に取るとベッドに横になり、足をパタパタさせる木枯さん...改め...怜さん。


 交互で上げ下げを続けるその足の間から、男のユートピアが垣間見える気がして目が離せなくなる。


 すると、彼女は不的な笑みを浮かべながら、「別に彼氏に頼まれたらパンツの1枚や2枚見せるし、何なら脱ぎたてをあげるくらいなんてことないわよ?」と、視線に気づいていたということを暗に伝えてくる。


「いや...だ、大丈夫です」


「あらそう?私はあなたの脱ぎたてパンツ欲しいけどね」


「...」


 変態なのか?と、そんなことを考えていると家の玄関が開く音がする。


 ま、まずい!!これは非常にまずい!!


 エリンと付き合っているときも彼女の存在はばれないようにコソコソしていた。

俺自身も親にそういうのを知られたくなかったし、エリン自身も親と会うのは少し気まずいかなって言っていたし、今思えばそれも少し先に別れるつもりだったからなのかもしれないが...。


 そうじゃない!今はそんな過去のことに浸っている場合ではないのだ!


「あっれぇ~?お母さん!なんか女の子の靴あるんだけど!ほら!やっぱりお兄に春が来たんだって!ね!」


「えぇ~、ただの友達じゃないの?」などという声が下から聞こえてくる。


 ちらっと、ベッドが降りて床に座り込んだ怜さんの顔を覗くとなんともいえない笑みを浮かべてくる。

この人...外堀から埋めてくるタイプの人だ...。


【挿絵】

https://kakuyomu.jp/users/tanakamatao01/news/16818093082577977777


「私のこと秘密にしたい?」


「...いや...まぁ...できれば...」


「却下♡」と、満面の笑みでそんなことをいう。


 そうして、ドタバタと勢いよく迫ってきて、ノックすらなく部屋の扉が開く。


 そこに立っていたのは...わが妹である獅子屋ししや 来夏らいかである。


「ま、まさか...その人がお兄の彼女!?...び、美人すぎる...」と、開幕早々そんなことを抜かす。


「...勝手に部屋に入ってくるなよ」


「お兄にプライベートとかないから。あっ、私は獅子屋来夏といいます!不束者の兄ですが、何卒よろしくお願い申し上げます!」と、お辞儀をする。


 すると、それに続いて母さんも出てくる。


「母です!不束者の息子ですがよろしくお願いします」と、頭を下げる。


 それを受けてゆっくりと立ち上がり、「初めまして、木枯 怜と言います。りくくんとは同じクラスでつい最近お付き合いをすることとなりまして...。ご挨拶をしようと思っていたのですが、タイミングが合わず遅れてしまい申し訳ございませんでした。改めてこれからよろしくお願いします」と、上品に頭を下げる。


「ふ、ふげぇ...お兄ちゃんには勿体無さすぎるほどの綺麗さと上品さ...」


「そうねぇ...すごく釣り合ってないわよねぇ...」と、失礼すぎる妹と母。


 その後は俺にとっては地獄の時間であった。


 母と妹による質問攻めにあう俺を何とかカバーしてくれる怜さん。

エリンの件はタイミングも含めて話さないほうがいいと思ったのか、少し前から付き合っていたという体で時系列等に矛盾が生じないように話している姿を見て、さすがと言わざるを得なかった。


 そうして、何とか2時間ほど耐久したころに、「そ、そろそろ帰らないとだよね!ね!」と何とか帰らせることを誘導することができたのだった。



 ◇PM6:30


「...会わせたくなかった理由わかるでしょ」と、怜さんを家に送りながらそんな話をする。


「そうね。確かに自分が逆の立場ならいやかもね。私としてはご家族とも話せて今日はだいぶ満足だけれどね」


「...そうですか...」


「それで?これから学校ではどうする?きっと、私たちが接近すればあの噂が本当だったということを暗に証明することになるでしょうね?場合によっては今よりもひどい立場になる可能性もある。私はあなたに合わせるわ。...けど、少しでもあの女に復讐をしたいと思う気持ちがあるなら、そうしてみるのも一興だと思うけど」


「...少し考えさせてください」


「はいはい。じゃあ、連絡先交換しましょう?」


「...うん」


 そうして、怜さんと連絡先を交換した。


「もうここでいいわ。送ってくれてありがとう」


「...うん。それじゃあ...また明日」


「えぇ。おやすみ」

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