第2話 差し伸べられた彼女の親友の手
「...なんですか?...真実って」
「私とあなたが浮気していると言う噂を流したのは...誰なのか」
「...知ってるんですか?」
「勿論。だって、その噂を流したのは私だもん」
「...は?」
意味のわからないことを言う彼女に思わず、キレながらそんなことを言ってしまった。
「あなたが私に敵意を向けるのは至極当然のことね。あなたから見れば私は敵以外の何者でもないでしょうし。けど、真実っていうのはそういうことじゃないの。あなたは恨みを抱きながらもちゃんと考えなければならない。なぜ、私がそんなこと言ったのかを」
「...理由があるんですか?」
「理由がないのにあんなことをすると思う?」と、彼女はドヤ顔で携帯を見せてくる。
「...なんですか?これ」
「これはとある盗撮写真」
そこには最近嫌でも目に入ってくる二人の写真が写っていた。
とある教室と思われる場所で、エリンと乃木岡が見つめ合っている写真だった。
思わず目を逸らしながら、「今更その写真がなんだって言うんですか?」と呟く。
「あなたって意外と鈍いのね。分からないの?これはあなたと付き合っている間の出来事なの」
「...は?」
「今度は戸惑いの『は?』ね。そうよ。あの女はあなたという彼氏が居ながら、あなた以外の男と出来ていたの。いえ、彼女目線で語るなら、あなたはあの男の闘争心を燃やすためだけの...餌に過ぎなかったってこと」
「...意味がわからない」
「元々、エリンはあの男を狙っていたの。けど、中々落ちない彼を落とすために夏休み明けてすぐ、何故かターゲットをあなたに変更した。恋愛で言うなら引きのテクニックってとこでしょうね。今までガツガツアタックして来た相手が突然別の誰かと付き合ったとなれば、嫉妬しちゃうのは人間の性というものでしょう?不倫や浮気やNTRなんていうジャンルが溢れているのもその証明だと思うの」と、いやらしい笑みを浮かべる。
「それに気づかなかった?この写真をよく見たらわかるでしょ?エリンの髪の長さ。これはあなたと付き合っていた時の長さでしょ。まぁ、でも写真なんていくらでも作れちゃうからね。けど、こっちはどうかな?」
すると、彼女はノールックでスマホをタッチすると、ある声が聞こえてくる。
『なぁ、彼氏はいいのか?』
『あんなの彼氏なんかじゃないよ?ただの暇つぶしっていうか...永世くんに振り向いて欲しくて「もういい!止めてくれ!」と、私語厳禁の図書室で叫ぶが相変わらず二人しかいないので注意する人も居はしない。
「まぁ、音声も作れる時代だからこれで信じないって言うならそれもそれでいいと思うわ」
「...じゃあ...なんですか...?見事に騙されてる俺に同情して...助けるために...木枯さんはあんなデマを流したってことですか?それで...今は一人になったってことですか?」と、やや地面にへたり込みながらそんなことを呟く。
「私がそんな善人に見える?いえ、確かにそういう側面もあったかもしれないわね。けど、あのデマを流したのにはもう二つ理由があるわ。分かる?」
「...分かりません」
「あらそう?残念ね。もう少し賢い人だと思っていた。一つはあの子と決別するためよ。彼氏が居ながら他の男に手を出して、彼氏をポイっとする女の親友なんてまっぴらごめん。本当、反吐が出るわ。そもそも私は元々一人が好きだったの。だけど、あの子が無理やり私に関わろうとして...。いえ、それは嘘ね。本当は楽しかったの。あの子といる時間が好きだった。あの子が好きだった。だからこそ許せなかった。あなたをそんな扱いをしたことが。もちろん、浮気相手に私を選んだのはあなただけを悪者しないためでもあるけどね。ちゃんと痛み分けはしなきゃだから」
「...随分俺に肩入れしてくれますね。俺なんてただの...親友の彼氏...ただの捨てられた彼氏じゃないんですか」
「鈍いわね」
「...鈍い?」
「はぁ。結局最後まで自分の口から言うことになるとはね。...理由の二つ目は...私があなたのことを好きだったから。好きな人がそんな扱いされたら誰だってムカつくでしょ。それが親友であろうと」
「...は?//」
「今度は照れながらの『は?』ね。あなたは本当に豊かな感情を持っているわね。まぁ、そういうこと。どう?私と付き合ってみる気はない?エリンと付き合ってる時よりずっと幸せにする自信があるわ」と、しゃがんでいる俺に手を差し伸べながらそう言った。
「...意味がわからないんですけど。何で...木枯さんが」
「分からなくていいわ。わかって欲しいわけじゃないの。ただ、私を好きになって欲しいだけ。きっと、エリンも気づいてたんじゃないかな。だからこそあの無神経な振る舞いが許せなかったの」
【挿絵】
https://kakuyomu.jp/users/tanakamatao01/news/16818093082545620757
「...」
「さぁ、私の手を取りなさい。これから始まるのよ?あなたの青春物語は」
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