第4話 1秒でも早く会いたい

 ◇約1か月前の8月30日


 夏休み明けのテストが終わり、その日は返却が行われる日であった。


 まぁ、期末テストほど重いものではなかったが、それなりに重要なテスト。


 そこで偶然もあったろうが、俺は数学で100点を取ったのだった。

どうやら学年で一人だったらしく、先生も俺の名前を呼んで称賛するのであった。


 クラスの日陰者による突然の下克上にクラスがざわめきたつ中、一人の女の子と目が合った。


 それが...夢宮エリンだった。


 それからちょいちょい目が合うような気がして、向こうも俺と目が合うとわざと逸らすような素振りをしており、15年間そういった青春に縁がなかった俺にとっては毎日が本当にドキドキな日々であった。


 それから少ししたある放課後の出来事だった。

掃除が一緒の班だった俺と夢宮さん。

黒板をきれいにしている俺に「今日の放課後...一緒に帰らない?」と言うのだった。


 本当に張り裂けそうなほどドキドキしながらもなんとか「...うん」と返答をした。


 そのまま二人で一緒に帰った。

何を話したかはほとんど覚えていない。

そもそも、男子ともまともにコミュニケーションをとれない俺が、学校の人気者である女子との会話を盛り上げられるわけもなく、基本的には会話の主導権をすべて彼女に任せて、緊張しながらただ応答するだけのBOTと化していた気がする。


 そうして、近くの公園のベンチに腰を掛けたところで彼女に告白をされるのだった。


「...私ね...その...好きなの...。獅子屋くんのこと...」


【挿絵】

https://kakuyomu.jp/users/tanakamatao01/news/16818093082580846997


「...そう...なんだ」


「...うん。だから...付き合ってほしい」と、目を見ながらも恥ずかしそうにそんなことを言われた。


「...うん...お願いします」


「ほんと!?やった!」と、いつも教室で見ていた姿に戻った夢宮さんは嬉しそうに立ち上がってそういった。


 次の瞬間には時は飛んで、あの噂が流れ始めたころに進む。


「...ねぇ...あの噂何?」


「何って...俺は本当に何も知らなくて...木枯さんとは...話したことすらないし...その...本当にわからないんだよ!でも、俺は本当に何にもしてなくて...!」と、涙ながらにそんなことを言った。


 きっと、すがるようなそんな目をしていたと思う。

まるで、飼い主に見放されたペットのような、母に捨てられそうになっている子供のような...。


「...それを信じろって?さすがに無理があるでしょ...。何もないのにそんな噂が流れるわけないし...。はぁ...最低」


「なんで...そんなの俺に嫉妬した誰かが流した噂だって!なんで俺じゃなくてそんな噂を信じるの!」


「...もういい?」


「...それって...いやだよ!俺は...俺は...エリンのこと!」


 そう言いかけた瞬間、頬に鋭い痛みが走る。


「...」と、怒った表情で俺を睨むエリン。

なんで?なんで...そんな...俺を...信じてくれないの...?


「...さようなら」



 ◇10月4日 金曜日 AM6:15


 ジリリリリリリリと耳障りな時計の音に目を覚ます。


「...」


 夢から覚めた。

まさかあの日のことを夢に見るとは...。


 そうして携帯の画面の眩しさに目を窄ませながら画面を見ると...。


『明日、デートに行きましょう』と、怜さんからRINEが来ていた。


「...デート...か」


 正直あまりノリ気にはなれなかった。

それでも俺を好きだって言ってくれたことは...嬉しかった。


 けど、また同じようなことにならないとも限らない。

その時、いよいよ俺の心は壊れてしまうのではないか...つまり彼女に依存してしまうことが怖かった。


 それにデートなんかしたらきっと、怜さんにエリンの影を重ねてしまう気がしたのだ。

そんなの...失礼だし、きっと相応しくない...。


 断ってしまおうかと思いながら、一旦携帯を閉じて朝シャンを浴びる。


 そのまま、すっきりしたのちにいつも通りの時間に朝食を食べながらテレビを見ていた。


 時刻は7:30を指していた。


 すると、家のインターホンが鳴る。


「ん?こんなに朝早くに誰だろう?」と、母さんが玄関に向かう。


 そして、扉が開くと嬉しそうな声が聞こえてくる。


 少し嫌な予感がしながらも振り返ると、そこに居たのは怜さんだった。


「...」


「1秒でも早く会いたくて...来ちゃった♡」


【挿絵】

https://kakuyomu.jp/users/tanakamatao01/news/16818093082581092212


「...」


 そうして、彼女との恋愛が始まった。

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