第2章:謎の落書き事件

 秋月高校の2年3組が、いつもの朝を迎えようとしていた5月のある日のこと。教室に入ってきた生徒たちの間で、突然ざわめきが起こった。


「ねえねえ、見た? あの落書き」

「やばくない? 誰がやったんだろう」

「先生に見つかったら大変なことになりそう」


 そんな声が飛び交う中、陽太は眉をひそめながら席に着いた。彼の隣に座る沙織が、興味深そうな表情で近づいてきた。


「おはよう、佐藤君。聞いた? 校舎の壁に、すっごく変な落書きがあるんだって」


 陽太は冷静に答えた。


「ああ、噂は聞いた。でも、そんなことに一喜一憂するべきじゃないよ。ただの悪戯だろう」


 沙織は不満そうな表情を浮かべる。


「もう、佐藤君ってば、もっと興味持ってよ。すごく不思議な落書きなんだって。『過去を暴け、真実は闇の中に』っていう文章と、何か複雑な図形が描かれてるらしいのよ」


 陽太は少し驚いた様子を見せた。


「へえ、そんな内容なのか。ただの悪戯にしては、随分と手の込んだものだな」


「でしょ? 私、気になって仕方ないの。放課後、一緒に見に行かない?」


 陽太は迷った表情を浮かべる。


「いや、僕は生徒会の仕事が……」


 そのとき、担任の山田先生が教室に入ってきた。いつもの穏やかな表情とは打って変わって、厳しい顔つきをしている。


「みんな、聞いてください。今朝、校舎の壁に不審な落書きが発見されました。これは決して許される行為ではありません。誰か心当たりのある人は、私に申し出てください」


 教室内が静まり返る。誰も手を挙げる生徒はいなかった。


「分かりました。では、この件については引き続き調査します。みんなも何か情報があれば、すぐに報告してください」


 そう言って、山田先生は通常の授業を始めた。しかし、生徒たちの間では、落書きの話題で持ちきりだった。


 放課後、陽太は生徒会室に向かおうとしていた。そのとき、沙織が駆け寄ってきた。


「佐藤君! やっぱり一緒に落書きを見に行こうよ。ね?」


 陽太は困惑した表情を浮かべる。


「だから、僕は生徒会の仕事が……」


「もう、融通が利かないんだから。生徒会副会長なら、なおさらこの事件を調べるべきじゃない?」


 沙織の言葉に、陽太は少し考え込む。確かに、生徒会としてもこの問題を看過するわけにはいかない。


「……分かった。少しだけ見に行こう」


 沙織は嬉しそうに飛び跳ねた。


「やった! さっそく行こう!」


 二人は校舎の裏手に向かった。そこには確かに、大きな落書きが壁一面に描かれていた。「過去を暴け、真実は闇の中に」という文字と、複雑に絡み合った幾何学模様。それは単なる悪戯というより、まるで暗号のようだった。


「すごい……」沙織が目を丸くして言った。「なんだか、ミステリー小説に出てきそう」


 陽太も思わず見入ってしまう。


「確かに、ただの悪戯じゃないな。これは何かのメッセージなのかもしれない」


「ねえ、私たちで謎を解いてみない?」沙織が興奮した様子で提案する。


 陽太は即座に首を横に振った。


「だめだ。これは教職員や警察に任せるべきだ。僕たち生徒が勝手に動くべきじゃない」


「えー、つまんないなぁ。せっかくのミステリーなのに」


 沙織が不満そうにつぶやく。そのとき、近くの茂みがサッと揺れた。二人は驚いて振り返ったが、そこには誰もいなかった。


「今の……誰かいたんじゃない?」沙織が不安そうに言う。


「気のせいだろう」陽太は冷静を装ったが、内心は少し動揺していた。


 その日以降、学校中が落書き事件で持ちきりになった。様々な憶測が飛び交い、中には「学校に埋められた宝物の在り処を示す地図だ」などという荒唐無稽な噂まで出回っていた。


 陽太は生徒会副会長として、この問題に対処せざるを得なくなった。彼は放課後、図書室で資料を調べ始めた。そこに、沙織が現れた。


「やあ、佐藤君。やっぱり調べてるんだ」


「ああ、生徒会としても対応を考えないといけないからね」


「私も手伝うよ。二人で調べた方が早いでしょ?」


 陽太は少し迷ったが、沙織の申し出を受け入れた。


「分かった。じゃあ、君は生徒たちの噂を集めてくれないか? 僕は学校の歴史について調べてみる」


 沙織は笑顔で頷いた。


「了解! 私の得意分野だよ」


 二人は別々に調査を始めた。陽太は学校の古い記録を丹念に調べ、沙織は休み時間を利用してクラスメイトたちから情報を集めた。


 数日後、二人は再び図書室で落ち合った。


「どう? 何か分かった?」沙織が期待に満ちた表情で尋ねる。


 陽太は少し疲れた様子で答えた。


「ああ、少しだけど。実は10年前、この学校で不可解な事件があったらしい」


「え? どんな事件?」


「詳細は分からないんだが、美術部の作品が何者かによって破壊されたという記録がある。しかし、犯人は見つからず、謎のまま終わったようだ」


 沙織は目を輝かせた。


「そっか! もしかしたら、今回の落書きはその事件と関係があるのかも」


「うん、その可能性は考えられる。でも、まだ確証はないんだ」


「私の方は、面白い情報が手に入ったよ」沙織が得意げに言う。「最近、夜中に校舎の周りをうろついている人影を見たっていう噂があるの」


「本当か? 誰が見たんだ?」


「3年の先輩が、補習の帰りに見たって。でも、はっきりとは見えなかったらしいけど」


 陽太は眉をひそめる。


「なるほど。これは要チェックだな」


 二人が話し合っていると、突然、背後から声がした。


「君たち、随分と熱心じゃないか」


 振り返ると、そこには山田先生が立っていた。二人は驚いて言葉に詰まる。


「あ、あの、先生。これは……」陽太が弁解しようとするが、山田先生は優しく笑った。


「心配しなくていい。君たちが一生懸命調べていることは知っているよ。実は私も、この事件には興味があってね」


 沙織が驚いて聞く。


「え? 先生も?」


「ああ。実は私、若い頃は推理小説作家を目指していたんだ。だから、こういうミステリーには目がないんだよ」


 陽太と沙織は驚きの表情を浮かべる。


「そうだったんですか」


「ええ。だから、君たちの調査、私にも教えてくれないかな? もしかしたら、役に立つアドバイスができるかもしれない」


 二人は顔を見合わせ、頷いた。


「分かりました。でも先生、僕たちが勝手に調査していて問題はないんでしょうか?」陽太が心配そうに尋ねる。


 山田先生は微笑んで答えた。その笑みにはどこか意味深長な雰囲気が感じられた。


「大丈夫だよ。むしろ、君たちの若い感性で何か新しい発見があるかもしれない。ただし、危険なことはしないでくださいね」


「はい!」二人は元気よく答えた。


 その日以降、陽太と沙織の調査は新たな段階に入った。山田先生のアドバイスを受けながら、二人は協力して謎に挑んでいく。


 ある日、陽太が図書室で古い新聞記事を調べていると、沙織が息を切らせて駆け込んできた。


「大変! 佐藤君、聞いて!」


「どうしたんだ? そんなに慌てて」


「ね、昨日の夜、また怪しい人影が目撃されたんだって! 今度は体育倉庫の近くで!」


 陽太は驚いて立ち上がった。


「本当か? 誰が見たんだ?」


「バスケ部の人たちが、遅くまで練習してて、帰り際に見たんだって」


「これは見逃せないな。今夜、様子を見に行こう」


 沙織は目を丸くした。


「え? 佐藤君が? いつもなら『危険だから止めろ』って言うのに」


 陽太は少し照れくさそうに答えた。


「まあ、君に影響されたのかもしれないな。でも、二人で行けば大丈夫だろう」


 沙織は嬉しそうに飛び跳ねた。


「やったー! あたし達、名探偵だね!」


「名探偵って……。これは真面目な調査だからな」


 その夜、二人は校舎に忍び込んだ。月明かりだけが頼りの薄暗い校庭を、そっと歩く。


「ね、佐藤君」沙織がささやく。「ちょっと怖くない?」


「大丈夫だ。何も起こらないさ」


 しかし、陽太の声も少し震えていた。


 突然、体育倉庫の方から物音がした。二人は息を殺して、そちらに向かう。倉庫の扉が少し開いており、中から光が漏れている。


「誰かいるみたいだ」陽太がささやく。


「どうする?」


「そうだな……」


 陽太が迷っていると、沙織が突然倉庫に向かって走り出した。


「おい! 沙織!」


 陽太も慌てて追いかける。二人が倉庫に飛び込むと、中にいた人影が驚いて振り返った。


「誰だ!」


 しかし、その人影はすばやく二人をかわし、倉庫から逃げ出した。陽太と沙織は必死で追いかけたが、暗闇の中、あっという間に見失ってしまった。


「はぁ……はぁ……逃げられちゃった」沙織が肩を落とす。


「仕方ない。でも、確かに誰かがいたんだ。これで噂は本当だったことが分かったよ」


 二人は興奮冷めやらぬまま、家に帰った。


 翌日、陽太と沙織は山田先生に昨夜の出来事を報告した。


「そうか、よく頑張ったね。でも、あまり無茶はしないように」


 山田先生は心配そうに言った。


「はい。でも先生、あの人影の正体は一体……」


 陽太が言いかけたとき、職員室のドアが開き、校長先生が入ってきた。


「やあ、山田君。ちょっといいかな」


 校長先生は陽太と沙織に気づき、にこやかに声をかけた。


「君たちも、落書き事件のことで話していたのかな?」


「はい」陽太が答える。「生徒会としても、この問題に取り組んでいます」


「そうか、そうか。頼もしいね。実はね、警察からも捜査の申し入れがあったんだ。でも、できれば学校内で解決したいんだがね」


 校長先生の言葉に、陽太と沙織は顔を見合わせた。これは予想外の展開だった。


「先生、僕たちに何かできることはありますか?」陽太が真剣な表情で尋ねる。


 校長先生は少し考えてから答えた。


「そうだな……君たちが今まで調べてきたことを、まとめてくれないかな。もしかしたら、大人たちが気づかなかった点があるかもしれない」


 陽太と沙織は喜んで承諾した。


「はい、分かりました! 頑張ります!」


 二人は新たな気持ちで調査を続けることになった。


 その後の数日間、陽太と沙織は放課後を利用して、これまでの調査結果をまとめる作業に没頭した。図書室の一角を陣取り、集めた情報を整理していく。


「ねえ、佐藤君」沙織が突然声をあげた。「この10年前の美術部の事件、気になるんだけど」


 陽太は顔を上げて答えた。


「ああ、僕もずっと引っかかっていたんだ。当時の記録を見ると、美術部の壁画が何者かによって破壊されたらしい。でも犯人は見つからず、謎のまま終わっている」


「そうなんだ。でも、今回の落書きと何か関係があるのかな?」


「分からない。でも、"過去を暴け"っていうメッセージは、この事件を指している可能性はあるよね」


 沙織は目を輝かせた。


「じゃあ、当時の美術部の人たちに話を聞いてみたらどうかな?」


 陽太は少し驚いた様子で答えた。


「そうだな……でも、10年前だからもう卒業してるはずだ。どうやって連絡を取ればいいんだろう」


「うーん、そうか……」沙織が考え込んでいると、突然アイデアが浮かんだようだ。「あ! 私、演劇部の先輩で、お姉さんが10年前にここの学校にいたって人がいるの! その人に聞いてみようよ!」


 陽太は感心した様子で頷いた。


「それはいいアイデアだ。さっそく聞いてみよう」


 翌日、沙織は演劇部の先輩から聞いた情報を持って、興奮気味に陽太のもとへやってきた。


「ねえねえ、聞いて! すごいことが分かったの!」


「落ち着いて、沙織。どんなことだ?」


「あのね、10年前の美術部の事件、実は単なる事故じゃなかったみたい。当時、美術部と演劇部の間で、なんかすごい対立があったらしいの」


 陽太は驚いて聞き入った。


「対立? どういうこと?」


「文化祭の主役を巡って、すごい争いがあったんだって。美術部は大きな壁画を描いて目玉にしようとしてたんだけど、演劇部も大掛かりな舞台をやろうとしてて。予算や場所の問題で、すごくもめたらしいの」


「なるほど……そして、その対立の結果が壁画の破壊につながった可能性があるってことか」


「そう! でも、結局誰がやったかは分からなくて、うやむやになったんだって」


 陽太は腕を組んで考え込んだ。


「これは重要な情報だ。でも、なぜ今になってこの事件が蒸し返されているんだろう?」


 そのとき、図書室に山田先生が入ってきた。


「やあ、二人とも。調査の進み具合はどうかな?」


 陽太と沙織は、今まで分かったことを先生に報告した。山田先生は熱心に聞き入り、時折頷いていた。


「なるほど、10年前の事件か。実は私も、その事件のことは聞いていたんだ。当時はまだ赴任していなかったけどね」


「先生、何か心当たりはありますか?」陽太が尋ねた。


 山田先生は少し考えてから答えた。


「そうだなぁ……ああ、そういえば」


「何ですか?」沙織が食い入るように聞く。


「最近、美術室の周りをうろうろしている人影を見かけたんだ。夜遅くにね」


 陽太と沙織は顔を見合わせた。


「それって、私たちが追いかけた人影と同じかも!」沙織が興奮気味に言う。


「かもしれないね。でも、まだ断定はできないよ」陽太が冷静に答えた。


 山田先生は二人を見て、にっこりと笑った。


「君たち、本当によくやってるね。この調子で頑張ってください。でも、くれぐれも無理はしないようにね」


「はい!」二人は元気よく答えた。


 その夜、陽太は家で調査結果をまとめていた。突然、携帯電話が鳴る。沙織からだった。


「もしもし、佐藤君? 大変なの! 今、学校の近くを通りかかったら、また例の人影を見たの!」


「え? 本当か?」


「うん! 今度は美術室に向かって行くのを見たわ。どうする?」


 陽太は一瞬迷ったが、すぐに決心した。


「分かった。すぐに学校に向かう。沙織、絶対に一人で近づくなよ。僕が着くまで、遠くから様子を見ていてくれ」


「了解!」


 陽太は急いで家を飛び出した。学校に着くと、正門の前で沙織が待っていた。


「遅いよ、佐藤君!」


「ごめん。で、どうだった?」


「うん、さっきからずっと美術室の中に入ったまんまみたい。光が漏れてるのが見えるわ」


 二人はこっそりと校舎に忍び込み、美術室に近づいた。確かに、中から微かな物音が聞こえる。


「どうする?」沙織がささやいた。


「警察を呼ぶべきかな……」陽太が迷っていると、突然美術室のドアが開いた。


 二人は慌てて隠れたが、出てきた人影はそのまま廊下を歩いていく。陽太と沙織は、その後を追うことにした。


 人影は体育館に向かっていった。そして、体育倉庫の前で立ち止まる。何かを探しているようだ。


「なあ、沙織」陽太がささやいた。「あの人影、どこかで見たことがあるような……」


 沙織もじっと見つめていたが、突然目を見開いた。


「まさか……あれって……」


 その瞬間、人影が振り返った。月明かりに照らされたその顔を見て、陽太と沙織は息を呑んだ。


 それは、間違いなく山田先生の姿だった。


 驚きのあまり、二人は声も出ない。山田先生も、二人を見つけて驚いた様子だった。


「佐藤君、久遠さん……どうして君たちがここに?」


 陽太が勇気を振り絞って尋ねた。


「先生こそ、こんな夜中に何を……」


 山田先生は深いため息をついた。


「説明しなくてはいけないようだね。ここではなく、職員室で話そう」


 三人は静かに職員室へ向かった。


「本当にすまなかった!」


 誰もいない職員室で山田先生は陽太と沙織に深々と頭をさげた。


「え?」

「どういことですか、先生?」


 陽太と沙織は困惑している。

 やがて山田先生は、伏し目がちに話し始めた。


「実は、10年前の美術部の事件……あれは私がやったんだ」


 陽太と沙織は、驚きのあまり言葉を失った。

 山田先生は続けた。


「当時、私はこの学校の新任教師だった。美術部と演劇部の対立が激化して、収拾がつかなくなっていた。そんなとき、美術部の壁画を……私が破壊してしまったんだ」


「でも、どうして……」沙織が震える声で聞いた。


「生徒たちの対立を終わらせるためさ。両方の作品をなくせば、争いも終わると思ったんだ。でも結果的に、問題を隠蔽し、遺恨を残すことになってしまった。そのことをずっと後悔していた」


 陽太が尋ねる。


「じゃあ、今回の落書きも……」

「ああ、私がやった。10年前の真実を明かそうと思ったんだ。でも、自分で描いておきながら、あとで怖くなってしまって……」


 山田先生は深く頭を下げた。


「本当に申し訳ない。生徒を巻き込んでしまって……」


 陽太と沙織は複雑な表情を浮かべていた。しかし、二人とも山田先生の苦悩を感じ取っていた。


「先生」


 陽太が静かに言った。


「僕たちは、先生の気持ちが分かります。でも、こんな形で真実を明かそうとするのは間違っていると思います」


 沙織も頷いて続けた。


「そうよ。先生がずっと苦しんでいたのは分かるけど、これじゃあ逆効果だわ」


 山田先生は二人の言葉に、わずかに笑みを浮かべた。


「君たちは本当に立派だ。私よりもずっと大人だよ」


 そして、山田先生は決意を固めたように言った。


「分かった。明日、校長先生に全てを話そう。そして、生徒たちにも真実を伝えよう」


 陽太と沙織は、先生の決意に安堵の表情を浮かべた。


 翌日、全校集会が開かれ、山田先生は10年前の事件と今回の落書きについて、すべての真相を語った。生徒たちは驚きつつも、先生の勇気ある告白に静かに耳を傾けた。


 集会の後、陽太と沙織は校庭で話していた。


「これで、一件落着だね」陽太がほっとした様子で言う。


「うん。でも、山田先生どうなるのかな」沙織が心配そうに尋ねた。


「分からないけど、きっと大丈夫だよ。僕たちにできることがあれば、全力でサポートしよう」


 沙織は明るく頷いた。


「そうだね! 私たち、良いコンビだったわ」


 陽太は少し照れくさそうに答えた。


「まあ、君の直感力と僕の分析力が、上手く噛み合ったからかもしれないな」


 二人は互いに微笑み合った。この事件を通じて、二人の距離が少し縮まったように感じられた。


 数日後、校長先生から発表があった。山田先生は謹慎処分となったが、多くの生徒たちの嘆願もあり、復帰できることになったのだ。


 教室に戻ってきた山田先生を、生徒たちは温かく迎えた。先生は、深々と頭を下げ、涙ぐみながら話した。


「みんな、本当にありがとう。これからは、正直に、誠実に、みんなと向き合っていきたいと思います」


 その言葉に、教室中から拍手が沸き起こった。


 放課後、陽太と沙織は図書室で今回の出来事を振り返っていた。


「ねえ、佐藤君」沙織が言った。「私たち、すっごく大きな謎を解いちゃったね」


 陽太は少し照れくさそうに答えた。


「うん、そうだね。でも、これはほんの始まりかもしれない。これからも、学校で起こる色々な問題に、一緒に取り組んでいけたらいいな」


 沙織は目を輝かせて頷いた。


「うん! 私もそう思う。これからもよろしくね、相棒!」


 陽太は少し驚いたが、すぐに柔らかな笑顔を見せた。


「ああ、よろしく」


 二人は互いを見つめ、固く握手を交わした。この事件を通じて芽生えた絆は、これからの学校生活で、さらに深まっていくことだろう。


 窓の外では、夕陽が美しく輝いていた。新たな冒険の幕開けを予感させるかのように。

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