第11話

 

 おれは、故郷を離れて、ずっと遠くの街の公立の大学の文学部に籍を置いている。

 これまでは、童貞で、同級生の女の子もなんとなくよそよそしい、天上の女神様を拝むような感じに接していたが、晴れて”元服の儀”?を済ませてからは、わりとクールに、対等にものを言えるような距離感になりつつあった。


 「ねえ、次の授業の教室、どこだか知ってる?」

 ある日、ショートカットで、声がハスキーな、色っぽい印象の女の子が話しかけてきた。髪は漆黒、黒っぽい服装で、性格もクラそうだった。


 「え?”英文学演習ⅱ”のこと?石坂先生の?」

「そう」

「3階のAVルームだよ。一緒に行こうか」

「お願い。アタシ聴講生なの。まだ慣れてなくて…」


 並んで授業を受ける成り行きになって、必然的にいろいろ”先輩”の立場でレクチャーしてあげることになった。

 陰キャラの”ハスキーちゃん”と、おれは、90分授業が終わるころにはすっかり打ち解けていた。


 陰気っぽいが、可愛らしい感じもあって、自然にフィットするタイプだった。聞くと、星座のエレメントが同じのさそり座だった。


 「聴講生で…なにか資格とろうとか?」

「図書館の司書やってるんだけど、嘱託なんで暇なのよね。純粋にもう少しいろいろ勉強したくて…司書としてのスキルの向上ね」

「真面目なんだなあ」


 おれはこの学校しかひっかからなくて、未だ田舎っぺの高校生に産毛が生えたくらいのレベルなので、将来の目標すら漠然としていて、で、最初に述べたようなsチューデントアパシーに悩む羽目になっていた。


 そういう若輩だから、ハスキーでセクシーな司書さん、目的意識のあるしっかりした社会人の女性と話す機会ができたのは望外の幸運のような感じだった。


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