第6話

 

 ピエロのお姉さんと偶然の出会いをして、ヒョウタンから駒、みたいにポン、キュッツ、ポンのヒョウタンボディを抱く成り行きになって、バイト代までもらってしまった。


 「童貞でなくなった」のは、おれにとって青天霹靂、驚天動地のような、天変地異みたいなすこぶる革命的な出来事だったので、おれはなんだかそれ以来自分が自分でなくなったような、蛇が脱皮して剥けた一皮ぶん成長したような?不思議な身軽さを感じていた。


 この出会いをきっかけに、真っ暗闇だった人生が、バラ色へと好転していくかも…おれは、昨日までとは嘘のように、うきうきして、だれかれ構わずにキスして回りたいような気分だった。


 ピエロのお姉さん…本名は”佳さん”らしいが、もらった名刺には赤い文字が大きく「佳」と印字されていて、今月の出店のスケジュールも載ってあった。


 「特別よ」みたいにもったいぶっていたけど、普通にソープ嬢もやっていたらしい。個人的に連絡が取れることも、そう嬉しがらずとも、普通に営業の一環だったのだ…


 やはり世の中世知辛いんだなあ?と、少し現実を知れた気がした。


 だが、さらに忖度すると、あの時、おれはオケラだったから、不憫に思ったお姉さんが咄嗟に作り話をして、入りやすいように計らってくれて、巧妙におれを誘っていたのかも?お姉さんもオンナやから、オトコをソソルくらいはわけがなくて、本当に「おれが好みのタイプ」だったのかも?かなりこれだと希望的な観測だが、全くありえなくもないという気もした…


 グニャグニャと埒もない黙想にふけっていると、またいつのまにかラブホとソープばかりが蝟集している一角、界隈に迷い込んでしまっていた。(この場合は「界猥」と書くほうが正しいだろうかw)


 もう薄暗くなっていて、ぽつぽつ照明が点いて、「紅灯の巷」という雰囲気になりつつあった。


 向こうのほうに、ちょっと崩れた感じの若い男が三、四人つるんでいる。時折「ウヒャヒャ」などと哄笑している。


 酔っぱらっているようでもあるが、単にそういうノリ?なのかもわからない。


 ふっと、おれとひとりが目が合った。整った顔立ちで、色白…”ヤクザ”の関係の人々なのかもあいまいだった。


 「ねえ!キミ!アルバイトしてみないか?」

 相好を崩して、その兄ちゃん?がおれに声掛けしてきた。


 「え?ボクですか?」

 「うんうん。あのね。撮影に付き合ってもらえないかな?時給は5千円でね。ちょっとした特殊なシチュエーションのモデルをしてもらいたいんだよ」


「まあ、時間はありますけど?どんな撮影?」

「あのね、『黒薔薇』っていうね、雑誌があって…」


 …要するにホモ雑誌のグラビア撮影の、素人モデルのスカウトらしい。おれはまあ、上背うわずえがあって、美貌ぽいから?おあつらえ向きに思われたのか?


 まあ、一緒にホテルに入って話そうよ、と言われて、男たちにラブホに連れ込まれてしまった。そういう、ボーイズラブのカップルが多いラブホらしかった。


 「ねえ、引き受けてくれるかい?まずカラダ見せて欲しいな。いいだろ?」

 ぬめーと目を光らせる感じで、男はかなり強引な感じに、迫ってくる。その二枚目タイプのほかに、サングラスの長身の男、角刈りの筋肉質の、精悍な若いのがいた。そういわれてみれば、そっち方面のヒトばっかりにも見える。だいたいホモ雑誌のエディターはやっぱりそういう趣味の人がするのかな?と思ったが、かなり内心焦って、恐慌をきたして?いた。


「ええ?やっぱ脱ぐんですか?ここですぐに?恥ずかしいなあ」

「大丈夫だよ。恥ずかしかったらおれたちも脱いであげるから」

三人はふっふっふと、笑った。


「えー?よけい恥ずかしいよお!」


…いったいどうなるのだろう?


<続く>

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