第2話

 おれは、世間との断絶感に苦しんでいた。

 長く”ひきこもって”、いて、おかしな幻聴に苦しんでいた。


 世界は灰色で、平板に見えた。頭のおかしい女にいきなり求婚して、肘鉄を食わされて、それが当然だと、さらに自虐の度を深めていく…むなしい企図。くだらない失敗。悪循環の無限連鎖。幻聴が嗤う。希望はなかった。


 蟻地獄のように、足掻けば足搔くほどに、奈落に引っ張り込まれるような、そういうはかないような無限運動のシーケンス。オチが馬鹿げた失敗に決まっている、単純な四コマ漫画のような起承転結の際限のないリピート…を余儀なくされていた。


 徒労感と無力感の極みで、街角を歩いていて、ビラ配りのピエロに出逢った。女だった。紅白にメーキャップした顔で莞爾にっこりと微笑む。


「お困りですか?あなたにぴったりのアルバイトがあるわ!興味ある?」


「?ボクはひきこもりの障碍者で…難しいことはできませんけど?」と、言うと、ピエロは首を振った。


「カンタンなお仕事ですよ。モニターなの。フウゾクに行ったことありますか?」


「フウゾク?あ、「風俗」か!ないです。」


「初めて風俗に行った人に感想を書いてもらってね、それをお店のPRに使うのよ。お遊びする料金は無料フリーよ。長く書けばそれだけ歩合が付きます。あなたは一見文学青年風だからぴったりかと思って…」


ピエロはちょっとはにかむような笑い方をした。

ひょっとしたら「好みのタイプ」とかだろうか?

まさかな…


「へえ。いい話やな。ボクは文学部卒なんで、作文はまあ得手のいいほうです。金欠なんでありがたいなあ」 


 笑顔になったオレを見て、かなりスタイルのいい”ピエロ”嬢は、「こっち」と手招きして路地に入っていった…


<続く>

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