第51話 長老との押し問答
「生憎と、本日も旦那様のお加減は優れず……」
「ここ最近はずっとそうではありませんか。
あれほど、そう私に水をかけに来るほどお元気だったのに、それは納得できませんわ」
場所は長老の部屋へ続く廊下だ。
そこに立ちはだかる執事を、今日こそは通してもらうという決意で見つめ返した。
これまでは相手が老人だし、押し掛けている身であるしと、何だかんだと追い返されてしまったが、そろそろ話をつけたい。
「ひょっとしたらもうお忘れかも知れませんが、私の使命は国王陛下に従うよう長老様を説得することなのです。
このままでは埒が明きません」
国境部の争いはいつ変化するかも分からない。
場合によってはヘリアンサスも移動しなければいけないだろう。
だが、このまま長老を説得できずにカエルムを去るようなことになれば、敵前逃亡のような形になってしまう。
託宣を受けた聖女様も結局神殿嫌いの長老の心を動かせなかった、そう見られてしまうのだ。
今後を考えると、それはできれば避けたいところだ。
だから戦況が動く前に決着をつけたい。
「お手紙をお預け下されば、お届け致しますので……」
「ですが返事が来ないではありませんか。
それほどまでにお悪いということですか?」
「そういうわけでもないのですが。
旦那様も色々とお悩みなのですよ。
聖女様にはお会いしたくないということで……」
それなら尚更畳み掛けねば、ヘリアンサスは内心でそう叫んだ。
悩んでいる者が、会いたくないと言っている。
その理由は一つだろう。会えば心が揺らぐからだ。
ここで攻めずにどうする。
「……とにかく!今日こそは何としてもお会いして頂きます!!」
「――――えええいうるさいわ小娘!!!
老いぼれの部屋の前で飽きもせず連日ぎゃーぎゃーと!!
人が悩んでいるのだからそっとしておけというに!!!」
派手な音とともに張本人が出てきた。
勢いよく開け放たれた戸にしたたか背中を打ち付けて、執事が無言のまま崩れ落ちる。
「やっと出てきて下さいましたね、さあ今日こそ首を縦に振ってもらいます!!」
「しつこいわ貴様!!
……だがまあいいだろう、入れ。
丁度今朝届いた試作品もある……
それもこれも料理長が酔狂だからであって、別に貴様らのためではないがな!!」
「分かっています!それより陛下への尽力を――」
結局問答は数時間続き、その日も答えは出なかった。
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