第11話 探り合いだよ密談は
「ならばまず、陛下にお尋ねします。
陛下にとっての、この戦争の終着点は何処でありますか。
敵軍に、リゲルに、陛下の臣民にお求めになることとは何ですか」
真っ先に聞きたかったことはそれだ。
なし崩しに始まってしまった戦争の、落とし所についての見解だ。
答えによっては今後の難易度が跳ね上がるし駄目元覚悟で逃亡を検討しなければならなくなる。
敵軍を押し戻せればそれでいいのか、奪還された砦や街を奪い返すつもりなのか、あるいは――先王の遺志を継ぎ、イージスを手中に収めるまで、止まる気はないのか。
ヘリアンサスの問いに、国王は端正な笑みに疲労を交じえて嘆息し、肩を竦めた。
「それは無論、一刻も早い終結を望んでいる。
王としての余の基盤はあまりにも脆い。
正直、他国と戦争などしている場合ではないのだ。
犠牲を少しでも抑え、リゲルに兵を退かせることができれば、それに越したことはない。
何より戦争が長引けば、民が苦しむだろう。それは余の望むところではない」
「…………」
――とても、とても耳障りの良い返しだった。
安堵感で、ずっと張り詰めていた糸が切れしまいそうなほどに。
そんな自分への警醒のように、同時に何かが凍りつく。
ともすれば緩みそうになる心の手綱を、しっかりと握り直す。体制を立て直し、次の探りへと移った。
「――……ですが、このままでは陛下は敗死なさいます。
敵軍が王国に雪崩込みあらゆるものを食い尽くす様を、私は祈りの中で見ました。
止め処無い虐殺と略奪が行われ、亡国の惨劇が歴史に刻まれることとなりましょう」
嘘である。そんな未来は一片も見てはいない。
だがそれなりに実現する可能性が高い未来だ。
この王は唯一残った前王の息子、そして未だ子供がいない。
ここで戦死するようなことになれば、国内の動揺は必至であり、中枢は後継者争いで割れる。
ただでさえ負けている状況でそんなことになればひとたまりもない。
それを、自らの存在の重さをを正しく把握しているのか。
この状況を理解できているのか。それが、探りたかったことの二つ目だ。
衝撃的な言葉を叩きつけて揺さぶりをかけ、反応を見る。
あわよくば主導権を握る。
さもしいやり口なのは百も承知だ。
僅かな反応も見逃すまいと目を凝らすが、国王はほとんど動揺を見せなかった。
「余が負ければ、確かにそれは必然の未来であろうよ。
そのようなことを注進するためわざわざ足を運んでくださったと?」
「いいえ、私はアルクスを救わんと参りました」
向けられた目に、何を求められているかを悟り背筋を伸ばす。
これなら、多少は手の内を明かしてもいいかもしれない。
覚悟を決めて口を開く。
「啓示を受けました。王国内に内通者がおります。
この者と、流す情報を活用すれば、勝利は陛下にもたらされましょう」
「頼もしい。して、その内通者とは」
「――……アルドル伯です」
その言葉に、僅かに国王の目が見開かれた。
実はこれも嘘である。
いや、関わっている可能性は高かろうが、目当ての貴族その人ではない。
子飼いの分家筋の一人だ。
こういう情報も、ラウラとの雑談の中で引き出したものであった。
何しろ相手はアルクス屈指の大貴族、おいそれと手を出せる相手ではない。
王と彼の関係もいまいち分かっていないので、取り敢えず子飼いの名を出して反応を見る。
石橋はいくら叩いても良いのだ。
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