第54話 再会

 国王陛下や王妃殿下にレジェロ、その向かい側には太公家一家が、空いた椅子に座るのはカランドとグラツィオーソ。

 そんな面々が襲撃者の取調べをした調書を持って立つカランドの父でもある騎士団長に注目している。

 「やはり狙いはカノンさまでした、彼ら自身は帝国で雇われた冒険者崩れの連中でギルドから引き取りのために冒険者が派遣されます、依頼人ですが阿保うなのか何の偽装もしていませんでした、帝国第三王子ジキタリスが自ら命令書を携えて依頼したようです」

 「馬鹿なんですの?」

 騎士団長の読み上げに耐えきれず無作法と知りながらもグラツィオーソが呆れた声をあげたが、誰も咎めないのは皆が同じ気持ちだったからだろう。

 「動機も話していたらしいのですが、此方は更に酷い内容になっています」

 騎士団長が花音を気遣うようにチラリと見たが花音は話を続けるように頷いて先を促した。

 傍らでアルカートが花音の震える手を握る。

 「勇者で異世界の娘ならコレクションに丁度良い、と」

 その言葉に全員のこめかみに青筋が浮かぶ。

 ワナワナと震えるほどの怒りを噛み締めながら一朗が笑顔で「ちょっと出かけていい?」と言い出したのを麻里亜が懸命に止めにかかる。

 どう対処するかは大人の領分だからとその日は王宮で泊まることになった。


 一人になった室内で花音はソファの隅にしゃがみ込むように膝を抱えて顔を埋めていた。

 周囲が落ち着くに連れて襲撃された事実が漸く実感を伴うに連れ遅れた恐怖が身体を襲っている。

 カタカタと震えが止まらない、人を使い攫うことも無感情に危害を人間から加えられることなど今までなかった。

 ウェブニュースで見ることはあっても今日明日、自分が被害者になるなんて想像すらつかないそんな環境で育ったのだから、当然と言えば当然なのだが。

 コンコンと控えめなノックに花音の肩が跳ねる。

 「カノン?起きてるか?」

 すっかり従僕の顔を捨て去った安心する声に「起きてるよ」と返せばゆっくり扉が開き、トレイに湯気の立つカップを乗せたアルカートが入ってきた。

 「大丈夫か?」

 「あんまり大丈夫じゃないかも」

 情けなく眉尻を下げる花音が顔を上げアルカートを見れば、普段は感情を出さない彼が苦しげに眉を顰めていた。

 「甘めのホットミルクだ」

 花音の隣に座り持ってきたカップを花音に持たせる。

 「許可は取ってきた、今日は俺がここに居るからカノンはゆっくり休んでくれ」

 手渡されたホットミルクを花音が飲み終えるのを待ってアルカートがそう言いながら空になったカップを花音から取り上げテーブルに置いた。

 花音はソファに座ったまま身体を傾けてアルカートの肩に頭を預け暫くすると静かに寝息を立てた。

 自身に体重を預け安心したように眠る花音を見ていたアルカートは窓の外に見える二つの月を睨んだ、その瞳に剣呑な色が滲んでいた。


 翌日、昼を超えてから花音たちは応接室に呼び出された。

 花音と風雅が応接室に入ると、赤くウェーブした髪をゆらめかせた女性が座っていた。

 「コリウスさん!」

 花音が女性に向かい走り出して豊満な胸の膨らみに飛び込んだ。

 「お久しぶりです」

 「アルも元気そうで良かったわ」

 ギュッと見知らぬ女性にしがみつく花音を風雅はポカンとながめていた。

 「君がフーガかな?私は冒険者コリウス、以前聖国へ向かうマリアとイチローとパーティを組んでいたの」

 えっ?と風雅は父母とコリウスを何度も見返す。

 「え?父さんや母さんと?え?い、幾つ……」

 「女性に年齢を聞いてはいけないと教わらなかったのかしら」

 思わず口をついた風雅の疑問はにっこり笑ったコリウスによって封じられた。

 「積もる話もあるけど、今日は馬鹿王子の後始末と始末が先だから」

 抱きつく花音の頭を撫でながらコリウスがそう言って悪寒の走る笑みを浮かべた。



 カランドの父親が騎士団長なのに前半あたりで間違えて宰相になっている部分がありました。

 現在、読み返して見つけ次第修正しています。

 いや、びっくりした。

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