第53話 久しぶりの学園
護衛の騎士を引き連れた物々しい登校は前もってレジェロとグラツィオーソが学園へ手を回していたこともあり、特に混乱は起きなかったが花音の周辺は俄に騒々しさを増していた。
「頑張ってください」「僕たちはお二人を応援してますから」
そんな言葉をすれ違いざまにかけられることが増えた。
「いやぁ、思った以上に効果あったみたいですまないね」
そうレジェロがバツの悪そうな顔で笑った。
「ある大国の王子が我が国の至宝である勇者の子を狙っている、彼女は先日想う相手とこの国で婚約を結んだばかり、護衛の騎士もだが我々は勇者の一族を邪な悪意から守らなければならない、なんて自国の第一王子から言われちゃあねえ」
「魔法科どころか騎士科や貴族科、普通科の生徒まで一致団結しちゃってますから」
グラツィオーソとカランドの言葉に花音がレジェロを見る。
「レジェロはそれでいいのか?」
胡乱げな目で風雅が問いかけるのを一瞬だけ悲しげに瞳を揺らしたレジェロがニコリと笑った。
「帝国のあんなクズに奪われるぐらいならこの国で長く友人でいる方を私は選ぶよ」
葛藤はあったのだろう、長い長いレジェロが胸に秘めていた勇者の娘と結婚し国を守っていく、そんな夢にレジェロは心の奥底へ鍵をかけてしまったのだろう、レジェロの表情に風雅は察して「そうか、ありがとうな」と彼にだけ聞こえるように呟いた。
グループワークが中心となる授業も採取のペースが落ちたことで進みが悪くなる。
公務のあるレジェロも頻繁に採取に出れるわけもなく、専らグラツィオーソがドルチェとカランドを連れて採取に出かけてくれている。
抜けたカランドの代わりを花音とアルカートが補う。
そんな日が一週間ほど過ぎた。
いつも通りに護衛の騎士に守られながらアルカートが先に続いて花音が馬車を降りようとしたところで、強い光が辺りを包んだ。
「花音!」「カノン!」
風雅とアルカートの声が重なりアルカートは花音を庇うように馬車に戻して被さった。
カンカンと金属がぶつかり合う音と怒声が聞こえる。
そのうちに見知った声が混ざる。
「加勢するわ!」
「フーガさま!」
「カノンさまは?」
グラツィオーソがハルバートを振り回しているのだろう、時折馬車が振動で揺れる。
居ても立っても居られない花音がアルカートを押し除けようとするも、びくともしない。
「拘束し王城の地下牢へ連れて行け」
「花音!アルカート!」
バンっと馬車の扉が開かれて風雅が飛び込んできた。
「アルカート、よくやった」
強襲されることは予想の範囲だった、予め決められていたのは花音の安全を最優先にすること、同時に花音を動かさないこと。
アルカートは引っ詰めていた息を吐いて花音の上から退くと、花音を起こして馬車から下ろした。
襲撃者たちは既に王城へ連れて行かれたらしく、風雅たちとレジェロは学園に入らず王城へ向かうことになった。
グラツィオーソは学園へ、カランドは太公邸へと馬車を走らせた。
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