第51話 遅かったわけじゃないはず
麻里亜と一朗の行動は素早く、花音の婚約は翌日には神殿を三日後には王宮を通して受理された。
一連の手続きに手を貸したのは王妃だった。
「この世界で生まれ育っても大変なのよ?これまで異世界で生きて来て後々王妃に、なんてそんな地獄を大事な友人の娘にさせるわけないじゃない」
そう言って国王を丸め込みレジェロが気付く前に婚約の承認が為されて一週間後には発表となった。
「は?え?どういうことです?」
国王夫妻が居を構える本宮の中の一室にゆったりとソファに並んで座る国王と王妃から披露目のパーティーの招待状を渡されたレジェロが目を見開く。
何度確認しても書かれている名前はアルカートと花音だ。
「な、なんで?」
「順に話をしましょうか、ひと月前ほどから帝国の間者が大公家の周囲をウロチョロしていたのは知っていますね?」
手にした扇子で口元を隠した王妃が呆然と立つレジェロに問いかける。
「襲撃があったこともあり、マリアさまとイチローさまが帝国まで乗り込んでいたのだけど、何をトチ狂ったのか図々しいというか、カノンちゃんとの結婚を打診し始めたのよ」
ギリとレジェロが歯噛みする、いつもなら注意するところを王妃は溜息を吐きながら話を続けた。
「正式な手続きをと時間を稼いでカノンちゃんと話し合ったらしいわ」
「そんな!なら私だって」
「脈がないことぐらい分かっていたでしょう?」
グッと言葉を飲み込み辛辣な王妃の台詞にレジェロは眉根を寄せた。
「これで易々と婚約者の変更も出来ないから、暫くは安心でしょう」
レジェロに取っては寝耳に水、最初の出会いから躓いていた。
オスティナートが花音に絡んだ辺りで警戒心を持たれ、学園に入学も慣例通りに貴族科へ入学すれば花音たちは魔法科に入学していた。
なんとか編入してさぁ少しずつ信頼をと思えど王子としての執務に追われて、いつだってアルカートに出し抜かれていた。
勿論アルカートにそんな気はないが、レジェロとしては悔しさをぶつける先がそこにしかない。
「今からでも挽回出来ないでしょうか」
絞り出すようなレジェロの声に王妃は目を細めた。
「まあ、貴方の努力次第ね、ただしカノンちゃんの意にそぐわない行為はしてはいけないわよ」
「それは当然です」
顔を上げたレジェロにそれまで黙っていた国王が口を開いた。
「卒業までだ、それまでに気持ちにケリをつけなさい」
卒業後は立太子されるため、今以上に自由はなくなる。
それまでの時間を貰ったことにレジェロは黙ったまま深く頭を下げた。
招待状を見てグラツィオーソとカランドが大公邸を訪ねて来た。
「これ、お祝いね」
「家からのお祝いは別に送ってくるけどこれは僕とグラツィオーソからだよ」
二人からプレゼントを受け取り花音たちはいつもの四阿に集まっていた。
「殿下のことは、良かったの?」
聞きづらそうにグラツィオーソが花音に問えば花音は風雅と目を合わせて困ったように笑った。
「レジェロのはさ、花音を見てるわけじゃないだろ」
風雅の言葉にカランドが頷く。
「勇者の子だから、そうなるはずだからってやつだね」
「なるほどねぇ、で?アルカートはそうじゃないって?」
「ん?アルがっていうか、私が好きって方が大きいかな」
シレッと口にした花音の言葉にお茶をいれていたアルカートの手元が狂う。
「失礼しました」
「いや今のは花音が悪いだろ」
クツクツと笑いながらバツが悪そうにするアルカートを風雅が宥める。
「まあでも、諦めそうにないしこの先はアルカートも頑張らないとですわ」
グラツィオーソが手土産に持って来たクッキーを頬張りながらアルカートから紅茶を受け取る。
「もちろんです」
笑みを浮かべたアルカートを風雅が満足そうに見ていた。
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