第48話 周りは慌しい
襲撃から直ぐに大公邸へ帰宅した花音は風雅と共に暫く大公邸からの外出を麻里亜と一朗に禁じられた。
不服がないわけではなかったが、花音や風雅に付いているアルカートとドルチェも危険に晒されるのだからと言われてしまえば、無理を通すことも出来ない。
とはいえ、そんな危険のない日本での生活から一変した生活は特に活動的な花音には窮屈過ぎた。
そんな花音を心配したのは、同じく安全のために大公邸に留め置かれていたコルネットだった。
「フーガさまは平気でもカノンさまはそうは行かないでしょう?日に日に元気がなくなっていくお姿は見ていて悲しくなるわ」
そう風雅に進言し、魔道具作りにウキウキと邸に引きこもっていた風雅もこれは確かに心配だと麻里亜と一朗へ相談に向かった。
数日後、大公邸には賑やかな声が湧き上がっていた。
建前では襲撃者の情報を集め切るまでの安全策として大公邸に呼び寄せられたのはグラツィオーソとカランドだった。
レジェロは当然、王城の方が安全な上に執務もあるからと王妃と妹であるオスティナートに笑顔で大公邸への出入りを禁じられたらしい。
「暫くお世話になりますわ」
「グラツィが来てくれて良かった」
花音の笑顔にコルネットも笑みを浮かべる。
「この間に魔法式を完成させましょう」
「そうだな」
カランドと風雅も楽しそうに笑う。
麻里亜と一朗が留守にするひと月ほど、学園を休学し大公邸へ引き篭もることになる。
通信魔道具を使用して授業は受けれるように取り計らってもらっているが、採取に行けないため魔道具研究が遅れることが引っかかっていたが、それもカランドとグラツィオーソの二人が来てくれたことで、少しはマシになるだろうと風雅はホッとしていた。
花音もまたやっと慣れてきた生活から引き篭もる生活に変わることを懸念していたが二人が来たことで学園と変わらない環境に胸を撫で下ろした。
「折角時間もありますから、女性陣には淑女教育を男性陣にはマナー教育をしましょう」
侍従モードにすっかり切り替えたアルカートがアルカイックスマイルで告げるとパチリと指を鳴らした。
ドルチェを筆頭としたメイド隊がずらりと並び花音や風雅たちを着替えさせに取り囲む。
あっという間に着替えを済ませられ、花音とコルネットにグラツィオーソは淑女教育のための教育係に、風雅とカランドはマナー教育のため執事長がそれぞれ連れ去っていった。
アルカートが周囲の気配を探りながら邸を警備する騎士隊の隊長に状況の確認に向かう。
壮年の厳しい大男はアルカートを見つけて眉根を寄せた。
「五人ってとこだな」
「やはりまだ居ますか」
大公邸に何処かの見張りが付いて数日が経つ。
ほとんどは帝国からの差金だと判明している、獣人や亜人を嫌厭する帝国の中央部は元から多種の人種が混在するこの国を目障りに思っているのは公然の秘密になっている。
勇者の帰還により勢いつくことを懸念しているのだろう。
一年ほど前に帝国内で中規模のスタンピードがあった、その始末に奔走していることも有名な話だ、今すぐに帝国が事を構える気はないのはわかる。
ならば、この密偵共が調べているのは。
そこまで考えてアルカートは舌打ちをした。
「確か帝国の王子にカノンさまと同じ年齢のが居ましたね」
「十中八九、それだろうな」
「身の程知らずな……」
アルカートは吐き捨てる様にそう言ってチラッと門の外を睨みつけ邸に戻っていった。
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