第45話 三日目

 「それでは私はここで失礼します」

 「うん、頑張ってね」

 「おう、頑張れよ」

 教室に入る前、扉を開けて花音と風雅に礼をし会場へ向かうアルカートを見送り、花音たちは教室へ入り席へと向かう。

 今日はグラツィオーソとアルカートが出場する武術大会がある、グラツィオーソは真っ直ぐ会場に向かったらしくいつもの席にはレジェロとカランドがヒラヒラと手を振って待っている。

 「アルカートはもう会場に向かったのか?」

 「ああ、俺たちをここまで送ってさっき向かったよ」

 「じゃあ私たちも会場に向かいましょう」

 カランドが立ち上がり、皆で会場へ向かう。

 大会のある演習場は普段騎士科が鍛錬に使っているのだが、今日は詰めかけた観客でその風景が賑やかに一変している。

 用意されている席に座ると周囲を護衛の騎士が囲んだ。

 「王族に勇者の子ですからね、窮屈ですが我慢してくださいと父からの言伝です」

 カランドが苦い笑いを見せる、一般の観客も多い武術大会だからこそ今日の警備を窮屈に思いながら風雅も花音も不満は口に出さない。

 最近はこのような過保護もやっと必要だからと飲み込める様になった二人だが慣れることはない。

 座りの悪いまま暫くすると大会の開催が宣言され、初手の試合が始まった。


 グラツィオーソが準備を終えて会場に入ると向かい側から入場してきた一回戦の相手が自分を睨みつけているのに気付いた。

 「アダージョ家のものだとて、手加減はしませんよ」

 そう吐き捨てるように口にするのは伯爵家の令嬢だったはずとグラツィオーソは毎年教育係から読まされる貴族名鑑を思い出そうとした。

 「どなたでしたっけね、まあ宜しいわ二度と会わないでしょうし」

 グラツィオーソは身丈より長いハルバートをグルンと回して構える。

 目の前の女生徒が長剣を構えた。

 開始の合図と共に女生徒が長剣を振り翳し走り込んでくるのを下から片手で振り抜いたハルバートが長剣を二つに折った。

 「弱いですわ」

 そう言いながら勢いを削がれた女生徒の足を払い転がった首筋にハルバートの切先を向けたグラツィオーソに試合終了の鐘が鳴った。

 「勝者、グラツィオーソ・アダージョ」

 結果を告げられグラツィオーソが退場する、それを花音たちは苦笑いで観ていた。

 「グラツィ、やりにくそうだね」

 「対人なだけでもやりにくいだろうな」

 「窮屈そうだよね」

 採取班としてあちこちで魔獣と戦っているグラツィオーソを知る花音とレジェロは同情しながら会場を観ていた。

 「あ、アルカートの出番だな」

 「アルー!頑張れー!」

 風雅の声に花音が入場してきたアルカートに声援を送る。

 危なげなく一回戦を突破したアルカートが折目正しく礼をして未だ寝転がる対戦相手に背を向ける。

 アッサリと進む試合にグラツィオーソが準決勝にコマを進めた。

 対する相手は辺境伯令嬢で優勝候補の一人、一番優勝に近いと言われている。

 スラリとした上級生の手にはカットラスが握られている、海に面した辺境ならではの獲物といったところか。

 船舶の中で最大限の威力を持つであろう湾曲した片刃剣を構える上級生に隙はない。

 対峙するグラツィオーソに汗が流れる。

 「強いね、相手の人」

 「辺境伯令嬢だな、既に実績を積み上げている」

 固唾を飲んで見守る観衆の中、勝負は一瞬でついた。

 振り下ろしたグラツィオーソのハルバートをさらりと受け流し体勢を崩したグラツィオーソの首筋にカットラスの刃がピタリと当てられた。

 「参りましたわ」

 冷や汗を流しながらも笑みを作ったグラツィオーソが降参を宣言すると会場に歓声があがる。

 グラツィオーソと辺境伯令嬢が握手を交わし控室に引っ込むと、斥候部門の決勝戦が始まった。

 此方もあっという間に決着がついた。

 開始の合図と同時にアルカートの身体強化魔法で一気に背後を取るとアルカートの短剣が対戦相手の急所を捉えていた。

 危なげなく優勝したアルカートに花音が拍手を送ると、それまで表情を崩さなかったアルカートか少しだけ微笑んだ。

 その瞬間、会場から黄色い声援が上がった。

 

 

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