第44話 二日目

 一日目が無事に終わり二日目。

 疲れ切ったカランドが教室に顔を出した。

 「父が、昨日の発表を見ていたらしく」

 どうやらカランドが昨日帰宅してから大騒ぎだったらしい。

 騎士家系にあって騎士としての素養が低くく、本人の気質としても文官に進んだカランドを認めながら、やはり親心としては気にしていたらしい騎士団長は昨日の研究や論文発表に新しい魔法式や魔法陣を作り出した息子に大層喜んだらしい。

 何をしたのか何がすごいのかはサッパリ判っていないのに、やれ天才だなんだとそれはもう王都のフォーコ伯爵邸をあげての晩餐があったらしい。

 すっかり疲れ切ったカランドが力無く席に座る。

 「フォーコ騎士団長、嬉しかったんだろう」

 すべき重荷が過ぎ去ったレジェロが清々しい笑みを浮かべる。

 「僕、この後弓術の見世があるのに」

 疲れすぎて最近一人称を「私」に変えていたカランドの口調が崩れてしまっていた。

 「はぁ、まあいいや私は準備に行ってきますね」

 カランドはぐったりしながら立ち上がると「来るなら今日だけで良かったんですよ、なんなら明日の武術大会だけでいいじゃないか」とぶつぶつ言いながら教室を出た。

 

 「あ、俺コルネットんとこ行くから」

 時計を確認した風雅が立ち上がる。

 「休憩時間に模擬店やら展示を周る約束してんだわ」

 ニッと笑った風雅がヒラヒラと手を振りドルチェを伴い教室を出る。

 残った花音とアルカート、レジェロとグラツィオーソは四人で模擬店や展示を周ることにした。


 見逃してはいけないと、コルネットの所属する中級から下級貴族の令嬢のグループか出しているバザーに足を運ぶ。

 既にコルネットの姿はなく、遠巻きにレジェロを見にきた令嬢たちが獲物を見るように鋭い視線を送る中、花音たちはゆっくりとバザーを眺めた。

 「いいわね、これ」

 グラツィオーソが手に持った花が刺繍してあるバレッタを花音に見せる。

 「わぁ、素敵!お揃いにしよう!」

 「そうね」

 花音とグラツィオーソがバレッタを選ぶと花音が会計をお願いする。

 バザーの当番なのだろう白いブレザーの女生徒が既に会計が終わっていると花音とグラツィオーソに伝えた。

 「彼方の方からいただいていますよ」

 「アルカートのこういうとこだよね」

 「侍従として当たり前のことなので」

 さらりと手を胸に当て礼をするアルカートをレジェロが睨みつけた。

 「殿下は下心ありすぎなんですわ」

 グラツィオーソがレジェロの狙いに気付いてフンと鼻を鳴らす。

 タイミング良く買ってあげようなんてことをしてるから、サラッとアルカートに払われるんだと言えばしょげたレジェロが肩を落とす。

 

 一頻り見て回るうちに弓術の時間が迫ってきた。

 高位貴族用に用意された席に向かうと風雅とコルネットが既に席についていた。

 「遅かったな」

 「殿下がちょいちょい落ち込むから時間がかかりましたの」

 「そりゃあまあ、気の毒に」

 くつくつと笑った風雅の近くにはドルチェが控えている。

 アルカートも花音の近くに控えると会場からファンファーレが鳴り響いた。

 射手が入場すればそれまでの賑わいが嘘のように静かになる。

 酷く遠い距離の的に矢が次々に刺さる。

 会場からは感嘆の息が漏れる。

 やがて見知った顔が入場したのを見て知らず高揚感に包まれた。

 「カランドだわ」

 「あの長弓だけでも迫力があるね」

 小声で話しながら視線は会場に向けられている。

 変則的に飛ぶ幻影の小鳥に向かいカランドの弓から矢が放たれると、幻影の小鳥が弾けて花火の様に光りを拡散する。

 キラキラと余韻を残し、カランドが礼をして退場していくと会場は拍手と歓声が湧き上がった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る