第41話 学園祭

 慌ただしく夏が過ぎ、冬の社交シーズンに合わせて学園祭が始まる。

 クラス単位の出し物などはなく、サークルや友人同士で集まり申請して何かしたりしなかったり。

 十五歳で成人とされるため、この世界では既に家督を継いでいる者も少なくない、家業や領地を抱えていれば学園祭など当然参加は難しいからとクラス単位での強制参加はしない方針らしい。

 とはいえ、お祭り騒ぎなのは普通科や貴族科ぐらいなもので魔法科は論文発表が主で騎士科は花形競技でもある武術大会がある。

 論文にしろ武術大会にしろ後々就職に関わるため、浮き足だった他の科に比べても力の入れ用が違う。

 風雅と花音は想像した雰囲気ではない教室に驚いていた。

 「まあ、将来がかかってますからねえ」

 そう言いながらカランドが纏めるのはグループワークの中で作ろうとしている魔道具から派生して生まれた魔道具に使用した術式や魔法陣などのデータだ。

 「論文の発表はレジェロ殿下にお願いします」

 「いや、私は素材を集めただけだし」

 「そういう謙遜は要らないわよ、注目度と慣れなら殿下が一番だもの」

 「スピーチ内容は俺とカランドとアルカートで作るからさ」

 「発表するだけだからやりなさいな」

 押し切られる形で発表をするのはレジェロだと決まるとぐでんと机に突っ伏した。

 「花音はアルカートとグラツィオーソ嬢とドルチェで実演を頼む」

 「了解」

 「グラツィオーソ嬢、ドルチェ、花音を頼むな」

 「任せてちょうだい」「わかりました」

 どんどん役割が決まっていく、周囲も話し合いがヒートアップしている。

 このメンバーは将来がある程度決まっているので周囲ほど力む必要はないのだが、学園時代に何かしら結果を残せば卒業後プラスになるのは分かっているため手を抜く気はない。

 「グラツィは武術大会にも出るんでしょ?」

 「アダージョ家から出ない選択肢がありませんから、カランドも同じでしょう?」

 「私は弓術の方なのでデモンストレーションですよ」

 デモンストレーションとは名ばかりの外部から人気のある種目にグラツィオーソが苦笑いを見せた。

 「武術大会かぁ、アルカートは出てみないのか?」

 「私は短剣ですからねぇ」

 「あるわよ?斥候部門」

 「あるんですか……」

 アルカートが肩を落としながら嫌な予感に震える、それを気にした風でもなく当たり前のように風雅が口を開く。

 「じゃあ出場の手続きしておくぞ」

 「え?ちょっと待っ……」

 さらりと風雅がアルカートの出場を決めてグラツィオーソがそっと渡した出場申し込み書に書き込むと、素早くカランドとドルチェが受け取り提出に向かった。

 「フーガさま」

 咎めるように名前を呼んだアルカートにチラッと風雅が視線をやるとアルカートにだけ聞こえる声で囁いた。

 「この先も花音と居たいなら目に見える結果を残しな」

 風雅の言葉にアルカートが目を見開いた。

 そのやり取りをレジェロが横目でジッと見ていた。


 レジェロは幼い頃から勇者と姫の話に憧れていた。

 十五歳になれば国に帰ってくると知ってからは、もし子どもが女の子ならば王を継ぐ自分の横に妃として座って欲しい、そう考えて婚約者すら置かずにその日を待ち侘びていた。

 十五歳になり帰ってきた勇者たちの側に居たのは不安に怯えながら双子の兄の背に守られている少女だった。

 レジェロは歓喜していた、そう疑いもせず花音を婚約者にひいては妃にと。

 ところがすっとこどっこい、気がつけば花音の側には従者であるはずのアルカートが常に寄り添っている。

 花音がアルカートを頼り切っているのは見ていれば直ぐにわかる。

 そもそもスタートが悪かった。

 妹のオスティナートが花音に食ってかかり、風雅も最初から自分を警戒していた。

 おかげで王城に居る間に少しでも距離を縮めようとしたレジェロの策はどれも空振りに終わった。

 更にいつの間にか仲良くなっていたアダージョ侯爵家のグラツィオーソとフォーコ伯爵家のカランドと共に従者を連れて学園の魔法科に入学していた。

 貴族科に入るものと疑わず、彼らの居ない教室で愕然としたのも記憶に新しい。

 無理を通して魔法科へ編入するも気付けば花音とアルカートは二人だけで冒険者紛いのことを始めていた。

 全て出遅れた、悔しさが溢れ出る。

 だが、実際に一緒に採取に出ればアルカートが無鉄砲に突き進みやすい花音を守るために想像を遥かに越えて研鑽を積んでいるのがわかった。

 風雅もそれに気付いていたんだろう。

 だからといって素直に応援も譲る気にもならないのだが。

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