第40話 開発班
「随分頑張ったみたいですよ」
くつくつとカランドが笑いながら風雅の前に座る。
「父がアダージョのお嬢さんの助力は狡いだろうって拗ねていましたから」
帰宅した騎士団長である父から聞いたレジェロの採取班入り試験での騒動をカランドは風雅に話して聞かせた。
普段は淑女然としたグラツィオーソの実力は王国騎士団でも一目置かれるほど。
冒険者ランクとはかけ離れているのを知っているカランドは久しぶりに見た父の不満気な顔に満悦だ。
「念書もいただきましたから、大丈夫でしょう」
「まあ俺もあんまり心配してないかな、アルカートもグラツィオーソ嬢も居るし花音も今じゃあ弱くないし」
弱くないどころか恐らく自分より強いのではないかと風雅が首を傾げる。
「さて、此方ですね」
「ドルチェ、こっち任せていいか」
「はい、畏まりました」
積み上げた魔法陣に関する書物のうち数冊を風雅はドルチェに渡す、ドルチェはそれを受け取り頁を捲っていく。
頁を捲る音とペンが走る音だけが風通しの良い図書室の一角を占めている。
必要とされるだろう魔術式や魔法陣、それらを書き写していく作業は存外骨が折れる。
騎士科の生徒たちが外周を走らされているのだろう、ひと方の賑わいが開けられている窓から聞こえてきた。
「少し休憩にしようか、ドルチェ頼んでいいか?」
風雅が手を休めドルチェに言えば飲食用のスペースにお茶を用意する。
「カランドも、少し休もう」「そうですね」
場所を移動して窓際のテーブルに着く、用意された紅茶を口に含んで長い息を吐いた。
「カランドの父君は騎士団長だったんだな」
「ああ言ってませんでしたね、うちは代々騎士を輩出している家系なんですよ、私は文官を目指してますが」
「代々ってなら反対されなかったのか?」
「向き不向きがありますからね、私は致命的に剣術や槍術に向いていないんです、代わりに座学は良かったのと兄が優秀な騎士になりそうだったので特に何も言われず文官になれそうです」
最初に行った洞窟で弓を手にしていたカランドを思い出し「そうなんだ」と風雅は自分から振った雑談を終わらせた。
「騎士科も大変そうですね」
「俺や花音には無理だな、性格上絶対性に合わない」
「父は期待していたみたいですよ」
この国を救った勇者の息子だからといって騎士になるとは限らないが、周りは確かに期待するだろうなと風雅は苦笑を漏らす。
「期待に添えず残念だったな」
「仕方なくないですか?勝手に期待して肩を落とされてもね」
「まあ、そうだよな」
そう、この国では勇者の子であるという必要以上の期待をされることが多い。
普通に日本で育った風雅には期待に添える気はしない。
恵まれた体躯もありスポーツは嫌いではない寧ろ好きな方だが、命のやり取りとなれば話は変わる。
花音は魔獣であれば気にしないというがそれでも「相手が人になれば別だよ、魔獣はなんかこうそう!日本でいうGみたいなもんだから」と言っていたが、見た目に人に近いと恐らく自分は割り切れない気がしている。
「向き不向き、か」
「フーガさまはそれでいいのでは?逆にカノンさまに当主は難しいでしょう」
カランドが風雅の考えを察してあっけらかんと言ってしまう。
「花音に当主は向かないけど、あれ将来的には伯爵家当主だぞ?」
「優秀な伴侶が必要でしょうね」
花音が居たら絶対に怒るだろうことを口にする男二人にドルチェが冷え冷えとした視線を向けていた。
「カノンさまも優秀です」
「座学以外はな」
「……」
ドルチェの抗議に風雅は笑いながら答えた。
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