第39話 採取班

 授業形態が単位制のため一回の講義をコマとして講義の収拾が自由になると平日の行動に自由が効くようになる。

 その自由な時間は好きに遊んでいいわけではなくグループワークや個人研究に充てる時間になるらしい。

 座学の試験も定期的にあるが、進級に重視されるのはグループワークでの結果やレポート、論文など。

 そして今日からは担当する役割毎に行動することになっている。

 浮遊する城下町から地上にある冒険者ギルド近くのカフェで待ち合わせた花音とアルカート、レジェロとグラツィオーソは花音から普段の冒険者活動で自分たちの決め事を聞かせてもらっている。

 「とりあえず身分がバレるのを防ぐため敬語はなしにしてるんだ」

 「なのでここでは俺のことはアルと」

 「なるほど、そうだなならば私はレジェと」

 「私はグラツィで」

 「私はカノンのままで」

 敬語を使わないことと呼び方を決めるとアルカートがテーブルに地図を広げた。

 「今日は近場でこの辺りに行こうかと思う」

 アルカートが指差したのは森林地帯の側にある平原。

 平原とはいえ角鼠などは出てくるため安全とは言えない。

 「赤い角鼠だっけ?あれの角が要るんだよね」

 風雅とカランドが必要素材をリストアップする中にあったのが赤い角鼠の角。

 効果は花音たちにはよくわからない。

 「何千匹に一匹だっけ?」

 「そう、だからこれからギルドで角鼠関連の依頼を受けてから向かおうと思う」

 先日、Cランクになったアルカートが場を仕切るがそれに異論を唱える者はない。

 グラツィオーソも実力だけならアルカートにひけを取らない自信があるが公的な実績はない。

 Fランクのままのレジェロとグラツィオーソは大人しく方針をアルカートに任せた。

 「多分今日中にというには難しいだろうから、暫く平原を中心に四人での対魔獣戦に慣れたいと思う」

 「そうだね、いつもはアルと二人だから人数増えたら私も動き方変わるだろうし」

 アルカートと花音は頷いてレジェロとグラツィオーソに笑顔を向けた。


 方針が決まると直ぐに冒険者ギルドに向かい平原の依頼を幾つか確認する。

 四人連れ立って馬車を乗り継ぎ二時間ほどで平原へと着くとそれぞれの武器を携え死角の少ない位置へと陣取った。

 岩陰から飛び出してきた数匹の角鼠にグラツィオーソのハルバートが勢いよく空を斬る。

 ブォンと風を割る低い音と共に三匹ほどの角鼠が吹き飛ばされる、が取り逃がした角鼠が先陣を切るグラツィオーソにその鋭利な角を向け飛びついた。

 「シールド!」

 魔力で出来た薄く白い盾がグラツィオーソの前に現れ角鼠を弾く、跳ね返った角鼠が着地する前にレジェロの細剣が真っ直ぐに角鼠を捉え刺し貫き、アルカートが短剣を振り抜いた。

 一呼吸の間に五匹の角鼠が地面に転がる、その角を手早く切り落としアルカートがマジックバッグに押し込む。

 「まだまだ来るぞ」

 ホッとする間もなく、そこいらの岩陰や草陰から角鼠が飛び出してくる。

 「これは騎士団の鍛錬よりキツイな」

 「仕方ないわよ、実戦向きの剣術なんて教えれないんだから」

 「グラツィは……」「私の斧術はハナから対魔獣特化ですわ」

 息つく間もなく襲いかかる角鼠に肩で息をするレジェロが悔しそうにグラツィオーソをみる。

 的の小ささに慣れたグラツィオーソは大振りの動きから切り替えて器用に角鼠を狩っている。

 「赤いの!あれ!」「出ましたわね!」「アレが……」

 他より一回り大きな赤い角鼠の個体を素早く後ろに回り込んだアルカートが短剣で斬りつける。

 「アル!うっシールド!」

 アルカートの前後左右から角鼠が飛びかかり突進するのを花音の魔法の盾が防ぎ、グラツィオーソが跳ね返った角鼠を刈り取る。

 手薄になった花音に向かってきた角鼠をレジェロの細剣が弾き飛ばした。

 

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