第37話 グループワーク

 夏が本格的に暑さを連れてくる頃になると、グループ毎にそれぞれの研究テーマを提出し、半年ほどかけて活動を始めるカリキュラムが始まった。

 本筋である授業も勿論あるが必要としない授業を受ける必要もなく、割り当てられている授業数もぐっと少なくなる。

 風雅と花音たちのグループは新しい魔道具の製作をテーマにしている、魔道具としての細工や魔法式の作成、さらには材料集めなど比較的取っ付きの良くない分野のため今期の一年生から魔道具製作を選択したのは一組だけとなった。


 「前の世界で便利だったもののうちから何か作りたいんだけどな」

 「一応私と風雅で幾つか候補を出してみたんだけど」

 ヒラリとアルカートが紙を取り出し皆の中心に置く。

 「えっと、どれも初めて聞くものばかりで想像つきませんわ」

 グラツィオーソがリストアップした文字列を覗き込みながら唸る。

 興味深そうに見ているのはレジェロとカランドだ。

 アルカートとドルチェはリストアップをしている時に花音や風雅から説明を受けている。

 これはどういうものか、実現性はどの程度あるか、また既存の魔道具に似たものがあるのかどうかなどアレコレと話し合うもなかなか一つに絞りきれない。

 「これは明日に持ち越しにしないか?今日帰ってから上位から五つ候補を挙げて」

 「得点式か、それなら決めやすいかもしれないな」

 レジェロの提案に全員が頷いてその日は話し合いを終わらせた。


 翌日、候補を出し合い決まったのはスマートフォン型の魔道具。

 似たものがあるためある程度はそれに倣い、そこから発展させていこうということにきまった。 

 とはいえ、電波もない世界なので不特定多数に通話が出来るということは難しい。

 予め登録した複数の相手との通信、映像の共有と保存、テキストの送受信など取り入れたいシステムをあげていく。

 それを薄い板状で作るとなるとまず現在の通信魔道具からさらに縮小しなければならない。

 なかなか骨が折れそうだと苦笑しながら、半年間の製作にかかる計画書を作成した。


 計画書の作成が済めば担当を決めなければならない。

 これが難航した。

 既にDランク冒険者になっていた花音とアルカートは素材の採取を担当、のはずがここで揉めた。

 普段からアルカートと二人で行動している花音としてはわざわざ危ないことをしなくていいし、身軽に動ける二人という気やすさが気に入っていた。

 ところが採取組にレジェロとグラツィオーソ、そしてドルチェが名乗りをあげた。

 風雅は魔道具の作成を、カランドは授業を受けるうちに興味を持った魔法式や魔法陣を担当したいと手を上げた。

 とはいえ個々で進めるには難しいことも多く、風雅とカランドは大まかに魔道具の担当となった、が、それでも手は足りない。

 「レジェロ殿下は仮にも第一王子なのですから、危険のある採取はご遠慮くださいませ」

 「そういう君は侯爵家の跡取りだろう」

 「私の領地は魔獣討伐の騎士団もありますし、代々当主は武闘派なんですの」

 「わ、私とて!幼少より王国騎士団と鍛錬を重ねてきたのだから」

 呆れたように花音がレジェロとグラツィオーソの引かぬ言い合いから目を逸らし、ドルチェに視線を向けた。

 「ドルチェは、風雅を守って欲しいんだけど」

 「……悔しいですがそれが最善でしょう」

 ドルチェはアルカートをキッと睨みつけてから溜息を吐き花音の願いに了承をした。

 「少し宜しいでしょうか」

 アルカートが終わらないレジェロとグラツィオーソに向かい片手をあげた。

 「差し出がましいとは思いますが、御二方はまずご実家の許可もしくは了承を書面で提出していただいてから、それを判断材料にしては如何でしょう」

 アルカートの提案に喜色を浮かべたのはグラツィオーソだ。

 身の丈もあるハルバートを操るだけあり、彼女の継ぐ侯爵家は魔獣討伐をメインとする武闘派。

 間違いなく了承を得れる自信に笑みが溢れた。

 対して何色を示したのはレジェロだった。

 「王家の許可、か」

 苦い顔をしたレジェロが「出る気がしない」と呟いたが、全員が「当たり前だろ」と呆れた視線を向けた。

 「わかった、必ず口説き落として見せる!私だってカノン嬢と冒険したいんだ!」

 夢みがちな少年の眩い瞳が花音を写し、花音ははぁと気のない返事を返した。

 

 

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