第36話 和解

 アルカートが珍しくトレイに乗せて渡してきた手紙を受け取った花音は困惑するように眉根を寄せた。

 謝罪から始まった手紙は反省文とその言動の理由、その後の後悔など五枚の便箋にびっしり書かれてあった。

 正直なところ、花音自身もあの時は理解出来ないことばかりで混乱していたし、いきなり向けられた敵意に怖くなって必要以上に警戒してしまった自覚はある。

 オスティナートは十三歳、自分たちより二つも歳下だ、そんな相手にあれほどの警戒と拒絶は花音も大人げがなかったと反省している部分はある。

 そのうち機会があれば話すこともあるだろうと悠長に構えていたのだが、花音が思っているよりオスティナートは随分深刻に考えていたようだ。

 アルカートに頼み風雅を呼びに行ってもらってから風雅にも手紙を見せる。

 「まあ、俺たちも大人げなかったしなぁ」

 「こういう場合ってどうする方がいいのかな」

 そこに割って入ったのはコルネットだ。

 警備の都合もあり、伯爵家で過ごすより大公邸で過ごす方が今後次期大公夫人になる時にも困らないだろうと、コルネットも今は大公邸に部屋を持っている。

 「お茶会をしましょう、本来であれば王女殿下をお誘いするのは難しいのですが、レジェロ殿下が我が物顔で出入りしていますから今更でしょう」

 「そういえばそうね、アル便箋いいのあるかな」

 「此方は如何でしょう」

 すぐにアルカートが差し出したのは小花が描かれた薄ピンクの柔らかい雰囲気のある便箋だった。

 「うん、ありがとう、コルネットさん書き方教えてもらっていいかな」

 「はい、私で良ければ」


 手紙を返信した五日後、花音はいつも使っている中庭ではなく更に奥に用意されたプライベートな四阿をお茶会の会場にし、オスティナートを迎えた。

 ふわりとした愛らしいパステルピンクのワンピースで現れたオスティナートは出会うなり頭を下げた。

 「以前はとんだ失礼をしました!」

 「お顔をあげてください!」

 慌ててオスティナートに駆け寄った花音が涙目で見上げるオスティナートに笑みを見せるとオスティナートはホッとしたように力んでいた体から力を抜いた。

 

 通常の客人を迎える四阿のある庭園は薔薇が中心になっているが、プライベートな使用途の庭園は麻里亜と一朗が集めた元の世界でも日本でよく見られる花を中心に整えられている。

 夏前の今の時期は終わりかけの藤の花が中心だが、整えられた庭園は緑と薄紫のコントラストが美しい。

 ほうと息を吐きながらオスティナートが庭園を見回す、会話が聞こえない位置には護衛の騎士が何人か控えている。

 「珍しい花がたくさんあるのですね」

 「ママやパパが集めてくるの、日本にあったのと同じか似た花とか木を」

 「そう、なのですね……カノンさまはお帰りになりたいのでしょうか」

 「さま、とかいらないよ?うーん、少し前まではそう思ってたんだけど」

 花音はアルカートをチラッと見てからオスティナートに向き直った。

 「今はこの世界の色んなものが見たいかなぁ」

 「お休みにはよく冒険者ギルドに向かわれると聞いてます」

 「うん、アル……ここにいるアルカートに付き合って貰って色々見て回ってるよ」

 アルカートはオスティナートの視線を受け礼をして視線が外れるのを待つ。

 「アルカートさまのことは兄がよく羨ましいと話しています」

 「レジェロは妹に何の話をしてるの?」

 「学園の休みには公務がありますから」

 暫くはレジェロの話をしながらオスティナートの気持ちを解していく。

 少しずつ砕けた口調になったオスティナートに花音はホッとした、堅苦しいやり取りが苦手なんだと思うものの口に出すわけにはいかない。

 こういう部分は使い分けたり器用に立ち回れる風雅を昔から羨ましくも思ったものだと花音は苦笑する。

 また、会いましょうと笑顔で馬車を見送った花音はやりきったとばかりに部屋に帰るなりベッドに寝転んだ。

 



 

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