第35話 オスティナートの悩み
叔母にあたる私の父である国王の妹と国を救った勇者が近い将来帰ってくると聞かされてからそう待たずに、彼らは現れた。
見たこともない大きな車輪の付いた箱が王城の外門を入ってくるのを城の一室から見ていた私の胸はドキドキと煩かった。
興奮した兄がイソイソと侍従に指示を出し正装とまではいかないがそれなりに身だしなみを整えている。
「今は陛下たちとお話をされているようですよ」
私の身支度のためにドレスを持った侍女が状況を教えてくれる。
小さな頃から聞かされていたこの国を救った異世界の勇者と王国の姫のお話は刷り込まれるように私たち兄妹に羨望を与えていた。
その二人に子どもが居るという事は知っていた、兄と同じ年齢の双子の兄妹だとドレスを持ってきた侍女が話してくれた。
私は会うのが楽しみだった、勇者の息子ならきっと逞しい殿方だわ。
従兄妹になるのだからもしかしたら、未だ決まっていない私の婚約者の候補になるかもしれない。
だって王妹である叔母さまは大公ですもの、次期大公なら身分としても問題ないはずよ。
それに従姉妹になる方は叔母さまに似て朗らかな方かもしれない、慣れないこの国で私が最初の友人になれるはずよ。
私は浮き足立っていた、兄もそうだろう。
晩餐を共にと連絡がありそこで顔合わせをするらしい、ソワソワと落ち着きなく部屋の中を彷徨いていた私の耳に部屋の外からメイドたちの声が聞こえてきた。
「どうやら随分と戸惑われていらっしゃるみたいよ」「ずっと周囲を警戒しておられるみたい」「帰りたいとか言い出さないかしら」「そうならないように私たちももてなしをしましょう」
そんな、声を聞いて私はショックを受けた。
楽しみにしていたのは私たちだけなの?彼らは私と会うことを望んでないの?
そう思ったら居ても立っても居られず部屋を飛び出していた。
角を曲がった先で寄り添い合う二人を見つけた。
あからさまな警戒心、敵を見るような兄より背丈のある綺麗な男の子がびっくりしている女の子を背に庇った。
向けられた敵意に咄嗟に口をついて出たのは女の子を責める心にもない言葉だった。
私の言葉にあからさまに気を悪くした男の子が駆けつけた兄の取りなしも虚しく、晩餐の席には着かず背を向けて行ってしまった。
兄からはこっぴどく叱られた。
後から聞いた話では、二人は何も知らされないままこの世界に連れてこられ、ロクな説明もされないまま二人だけで置かれていたらしい、そりゃあ警戒しますわよ。
しないほうがおかしいですわ。
部屋に帰された私はめちゃくちゃ後悔した、本当にとんでもなく後悔した。
自分たちがどうなるのかわからない心細く不安な人に、私はなんてことを言ってしまったのか、と。
なんとか関係改善をしたくて接触を試みるも、避けられている上に兄が悉く妨害をする。
大公邸に引っ越すと聞いてからは尚更焦った。
焦りに焦り、結局私はあの日以降二人にあえないまま二人は呆気なく王城を去ってしまった。
貴族科へ進学した兄が入学式のあった日に両親へ直談判をして魔法科へ特例として編入したとおしゃべりな侍女に聞かされた。
兄は何をしているんでしょうか、ご迷惑をお二人にかけていなければいいのだけど。
そんな心配も学園でお二人を含むグループのご自慢話をする兄を見ているとどんどん膨らみ、次いでにドヤ顔で自慢する兄へのヘイトが溜まっていく。
もうあれから何ヶ月も経ってしまった、私のことは相変わらず好かれていないと思っているらしいと兄から聞いてまた落ち込んだ、そのうち従兄であるフーガさまが伯爵家の令嬢と婚約したと告げられた。
私は呆気なく失恋したのだと知った。
そうしてやっと私は見たこともない勇者の息子に恋をしていたのだと気付かされた、その人が私に向けた警戒心それがショックだったのだと。
今更気付いても仕方がないし、そもそも本人に出会う前からの子どもの夢のような恋、それに内心でピリオドを打てばやっぱり気になるのはカノンさまとの関係。
私は思い切ってカノンさまへ謝罪と私の正直な気持ちを手紙に認めて、侍女に託した。
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