第31話 休暇明け
「はぁ?何ですか!それ!私は聞いていませんよ!」
休暇明けの教室で声を荒げたのはレジェロだ。
花音が冒険に出た村で買ってきた土産を各々に渡している最中のことだった。
「え?アルカートと二人だけ?は?え?ど、どうして!どうして私に声をかけてくれないんですか!」
バンと机を叩くレジェロを風雅がジロリと睨む。
「レジェロは王子さまのお仕事だったんでしょ?あ、はい、これはレジェロの分ね」
華やかな花が彫られたループタイを花音が渡すと咳払いをしながらレジェロが受け取る。
「花の意味とかそういうのはないんだけど、みんなそれぞれに似合いそうだなぁって思ったのを選んだの、初めてこの世界に飛び出した記念」
えへっと笑った花音の結び上げた髪には空色のリボンが結んである。
「カノンのリボンも同じ織物なのね」
グラツィオーソが目敏く言えば花音が歯に噛むように目を逸らして笑った。
「アルがね、くれたの」
その言葉に全員の目がアルカートに向くが、それをシレッと受けていつも通り無表情に佇んでいる。
「アルカートの色じゃん」
「ってか、アル?愛称呼び?」
ざわりとどよめく周囲にドルチェがジロッと隣のアルカートを睨め付ける。
「んでね、じゃーん!Dランクになったんだよ」
花音は嬉しそうに笑いながら冒険者証を見せる。
村から帰ってからも近場の日帰り依頼を受けるなどしていた花音とアルカートは休み期間中にランクアップをはたしていた。
ワイワイとやっているうちに始業の時間が迫り、ガタガタと席に着く。
ふと風雅がアルカートを小さく手招いて耳打ちした。
「アルカート、悪いが花音を頼むな、レジェロをあまり近づかせるな」
「了解致しました」
アルカートは他に聞こえないように、けれど力強く頷いた。
風雅は溜息を吐いた、こちらに来てからわかったが母麻里亜は根っからお姫さまだ。
楽天家で頼りない父、お姫さまである母麻里亜。
二人に任せるには不安が過ぎる。
最初からレジェロは花音に懸想している気配はあった、ただの色恋だとしても不安な花音にこの世界で力を持つレジェロをあまり近寄らせたくはなかったが、暫く前から小公子としての勉強を始めるといよいよレジェロに対して危険信号が止まらなくなった。
風雅自身もだが花音も政治的な利点がありすぎる、不安につけ込まれ意にそぐわないことにならないように、片割れである花音を守れるのは自分の役割だと思っている。
レジェロが妙に花音へ執着を見せているのも警戒する理由だろう。
風雅が何度目かの溜息を吐いたところで、ゲネラル先生が教室に入って来て休み明け予告されていたテストが始まった。
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