第28話 村での休日

 塔から戻り今度は確実にふた部屋宿を取り、翌日の朝を迎えた。

 昨夜、一泊予定を延ばすことを通信魔道具で連絡したアルカートは詰め寄る風雅を宥めすかし休めたのは二つの月が登りきった後だった。

 翌日もよく晴れ二つの太陽が伸びやかに村に朝日を運んでいた。

 朝食をのんびりと済ませ、村の中心部を目指す。

 教会に併設された学校らしき青空教室には年齢がまちまちの子どもたちが集まり、神父らしき青年が算数を教えている。

 花音とアルカートは何処という目的もなく村を歩いていた。

 「あれは市場かな?」

 「そうみたいだな、規模は小さいけど」

 野菜や加工肉、小麦などを並べた露店が中心部の空き地にひしめいている。

 「乳製品もあるのね」

 「あちらには織物も」

 アルカートの指さす方に目を向ければ鮮やかな布を売る露店がある。

 「お土産に良さそうね」

 露店へ近づくと店主であろう中年の女性が和かに話しかけてきた。

 「あらあら可愛らしいカップルねぇ」

 そう言われてアルカートが慌ててそれを否定する。

 「ち、違います!」

 「まあまあまあ」

 少しムッと頬を膨らませていた花音だったが、色とりどりの織物に目が行くと視線は織物に縫い付けられた。

 「あ!これ、リボンですか?わぁ可愛い!コルネットさんやドルチェへのお土産に良さそう!」

 「きっと喜ぶよ」

 何本かのリボンを買って花音は隣の露店に目を向ける、そこにはループタイが並んでいた。

 風に揺れる稲穂の柄が彫られたループタイを手に取り、花音がそれを買う。

 そうこうしているうちに両手が荷物でいっぱいになると、人目を避けてアルカートがマジックバッグにそれを仕舞った。


 「ふう、少し疲れちゃったね」

 木陰に置かれた粗雑な長椅子もどきにドサリと腰掛けた花音がぼんやり目の前の賑わいを見てヘラリと笑った。

 「向こうに果実水が売られていたので買ってこよう、少しだけ待っていてくれ」

 アルカートがそう言って露店の並びへ戻る。

 歩き騒ぎ疲れたのだろう、先程見た露店に柑橘系のものがあったはずと目の端に花音を認めつつ足早に目当ての露店へ向かうアルカートが不意に足を止めた。

 先に花音が見ていた織物の露店に花音の髪に似合いそうだと一瞬過った空色のリボンを手に取ると、暫く逡巡してポケットから銀貨を取り出した。

 果実水を買い花音の元へ戻る、アルカートから果実水を受け取った花音が、迷いなく乾いた喉に爽やかな香りのする果実水を流し込んだ。

 「ふぁあ、生き返るう」

 やや大袈裟に目を細める花音にアルカートは先程買ったリボンの入った包みを手渡した。

 「え?何?」

 「カノンは自分の土産を買ってなかったろう?」

 さらりとそう言ったアルカートに渡された包みを花音はゆっくり開いた。

 「うわぁ綺麗!」

 空色のリボンを手に花音が満面の笑みを浮かべた、普段なら麻里亜につけられているマナーの家庭教師に怒られてしまう、そんな笑顔でアルカートを振り返る。

 「アルの色だね!ありがとう!」

 「え?」

 そう花音に指摘されて初めて「似合うだろう」と思って買ったそれが自分の髪色だと思い出したアルカートは、口元に手の甲を当て花音からふいっと目を逸らした。

 「ねぇねぇ似合う?」

 邪気のない笑顔で結んだ髪に空色のリボンを付けた花音がアルカートに笑いかける。

 「に、似合う、と思う」

 「ありがとう」

 はぁと長い息を吐いてアルカートは騒ぎ出した気持ちに水を打った。

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