第24話 二人だけの旅

 数日前から大公邸は大騒ぎだった。

 それはもう一朗から始まり何故かウキウキと楽しそうな麻里亜にずっと不機嫌なドルチェ、風雅ですらあれやこれやと口をだし手を出し。

 一番冷静なのはコルネットという状態で、ウダウダと絡んでいく風雅たちを呆れた溜息で一蹴したコルネットが腰に手を当てて「アルカートさまが、不埒なことをするわけないでしょう」と言ったのが決め手になり、外泊付きの依頼を受けることが決まった。

 「絶対変なことすんなよ」

 と風雅が言うのをコルネットは溜息混じりに脇腹を肘で突いて花音とアルカートに「いってらっしゃい」をした。


 賑やかな見送りを受けて冒険者ギルドに顔を出す。

 アルカートが冒険者用の目的地までの地図を受付カウンターで買ってくるとギルド内に作られた食堂のテーブルに地図を広げた。

 「乗り合い馬車で今日はこの村まで行きましょう、明日このルートを取るのが安心かと思われます」

 「細かい地理はまだ私にはわかんないから、その辺はアルカートに任せるね」

 「正直、そうしていただけたら助かります」

 アルカート自身も今回の花音との冒険は楽しみではあった。

 勇者の娘であり母であるこの国の王妹と同じ回復魔術を使う花音に御伽話に憧れるような気持ちがないわけではない、まして学園へ共に通ううちにその異界育ちらしい気さくで明るい人柄にも好感は持っている。

 本当はもっと異界の話が聞いてみたいが、立場上催促も出来ない。

 花音だけではなく風雅もお互いに異界の話をしても、この世界の人々には当たり障りなく誤魔化して詳しく話していないことにアルカートは気付いていた。

 自分たちにはわからないと思われているのだろうかと不満に思ったこともあったが、どうやらそうではないと気づいた。

 「まだあまり信用されていないのかもしれない」

 そこに行き着くことに時間はかからなかった。

 懐かしむあまり口にしない、そして風雅は兎も角花音はまだ異界へ戻りたがっているのではないか。

 その恐れは言葉は交わすこともなくドルチェと共に花音の側に侍っていれば共通の思いだった。

 敏感にもそれを感じているのは他に風雅以外だと恐らくレジェロだろう、それもアルカートは立場は置いても不機嫌にさせるものがあった。

 だからこそ、この世界を知って楽しんでもらいたいという気持ちがアルカートにはあった。

 あったが、護衛も兼任する立場では花音の安全が第一になる。

 「ではこのルートで、宿は先程ギルドを通して予約しておきました」

 「ありがとう!やっぱりアルカートが居ると安心だね」

 にっこりと笑ってアルカートを見上げる花音に息を詰めながら「恐縮です」と礼を述べ、出立の準備に取り掛かった。

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